時が経ちティーンエージャーになったゴーゴリは、インド人であることや、風変わりな名前を恥じていた。イェール大学に入り、コロンビア大学の大学院に進んだ彼は、自分の名を捨て、正式にニキルと改名する。ゴーゴリがマンハッタンの裕福な白人家庭に移り住み、ラルフ・ローレンの広告さながらの生活をはじめるくだりは、本書の中でもとくに印象的な場面である。ここではラヒリの卓越した観察眼がおおいに駆使されており、また、多くの人があこがれる地で味わう、よそ者という疎外感を描き出すことにも優れた才能を発揮している。
ゴーゴリの父親の死の後にこのエピソードを割り込ませることで、ラヒリは物語を突如1年後に移す。結婚、離婚、そして息子としての複雑な心境に悩むゴーゴリ。こうした概略が、じつは本作の難点を助長している。調和に欠いた展開によって、感情的な側面が章ごとにバラバラに見えてしまうからだ。ラヒリは美しく生き生きとした絵画的な描写を多用しているが、一家のささやかな一代史にとどまらないこの物語には、そぐわないように思われる。前作で得たあまりに高い評のために、やや物足りなさも感じられるが、もしこれがほかの著者であれば、文句なしの長編デビュー作と絶賛されるところだろう。
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24 人中、20人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
人が生きていくというただそのことが胸に沁みる,
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レビュー対象商品: その名にちなんで (新潮クレスト・ブックス) (単行本)
なんの変哲もない移民の家族の物語なのに、「人生」や「家族」にまつわるもろもろがしみじみ胸にしみわたる。アメリカに移住したベンガル人の若夫婦が、二人の子供を育てていく。語りの中心となるのはゴーゴリと名づけられた息子だが、ひょいひょいと登場人物のあいだで視点を動かしながら、人生の小さなエピソードが丁寧に積み上げられていく。途中、ニキルと改名したゴーゴリが、二重の名前、二重のアイデンティティーで生きながら、自分をゴーゴリと名づけた父の心情を思いやるラストが切ない。単なる移民の物語ではなく、「人生の成り立ち」を普遍的に描く、傑作である。
28 人中、23人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
三つの層,
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レビュー対象商品: The Namesake (ペーパーバック)
アメリカで暮らすインド人の夫婦が、子供の名前をつけようとして、インドにいる祖母に命名してくれるように手紙で頼む。ところがその返事の手紙が届かず、とりあえずということで、父親は息子にゴーゴリという名前をつける。父親が崇拝していたロシアの作家の名前だが、その名前には父親の個人的な事件による、特別な思い入れがあった。作者は、このゴーゴリという息子の名前を思いついたとき、この小説は勝負あった、と思ったにちがいない。アメリカ社会にすむインド人で、ゴーゴリというロシア名前をもつ若者。息子はその名前を拒否して、改名する。しかしその名前で過ごした思い出までが消えるわけではない。作者は、ゴーゴリの父親、母親、ゴーゴリの幼児期から、青春、結婚とたんねんに描写していく。どこにでもあるような人生をつづりながら、人生の経験は、その人だけののものであるということを静かに語りかける。 ファンタジーや、派手な道具立てなどに飽きた人に、ぜひおすすめしたい。最後の場面にたどりついたとき、なんだか長い旅をおえたような気になる。そしてこれこそが、長編小説を読む醍醐味だったとわかる。 以前にニューヨーカーに前半の三分の一くらいが紹介されていたが、さすがというべきか、その刈り込みかたがじつにうまかったことを、あらためて思ったりする。
11 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
異文化の地に住むということ,
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レビュー対象商品: その名にちなんで (新潮文庫) (文庫)
アメリカを舞台に、そこに移住したインド人家族を描いています。主人公は、二世のゴーゴリ(ニキル)です。 彼は、ベンガル式の命名法に拘った両親によってゴーゴリと名づけられます。もう一つの名前ニキルも大きくなって付けられますが、ゴーゴリと呼ばれています。 彼は、両親のベンガル式の生活様式や考え方、価値観に反発します。そして、大学に入学し、家を出て寮に入るのを機会に、ニキルを正式の名前とするための手続きをします。それは、ベンガル方式からの離脱であり、アメリカ社会への適合の決意です。 そうした彼の決意が揺らぐのが、父親からゴーゴリの由来を聞いた時でした。そして、その父親の死に直面した時、彼はそれまでのアメリカ人の二人の恋人から、インド人の恋人を選びます。まさに、インドへの回帰です。 しかし、その女性との結婚は破綻します。何故なら、その女性もインドへの反発の精神を持って生きており、ゴーゴリのようにインド回帰の気持ちがなかったからです。 アメリカとインド、両親の世代と二世の世代、こうした二面性が、モザイクのように絡み合いながら、主人公ゴーゴリは成長して行きます。 ラヒリのこの作品は、視点が何度も何度も変わります。従って、一つの視点でないので、それぞれの考え方がきちんと描写されて、いろいろな考え方が公平にきちんと描かれています。 一方で読んでいて、戸惑いを覚えてしまったことも確かですし、主人公への共感がしにくい面もあることは確かです。 それでも、それを十分に補って余りある作者の筆力が、読者を魅了してくれます。
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