この「そして誰もいなくなった」は、いうまでもなく、ミステリファンなら知らない人はいないとまで言われるほどの、アガサ・クリスティーの傑作中の傑作ミステリの映画化作品である。
今、「知らない人はいない」と書いたが、実は、それは、あくまで1939年に出版された長編ミステリのことであり、あまり知られていないことだが、クリスティーは、この長編作を1943年に戯曲化しており、そこでは、あの有名な結末が変えられているのだ。1945年に公開されたこの映画は、この戯曲と同様の結末に改変されており、そういった意味では、原作を知る者であっても、どんな結末なのかとわくわくする期待感を持って、この映画に接することができるのではないだろうか。
ちなみに、自伝によると、クリスティーは、「この作品を劇化することができたら、どんなにすばらしい物になるだろう」と考え、「原作の一ヵ所を変更することで完全にいい劇にできそうに思え」、改変したのがこの結末なのである。上演前は、みんなに「上演不可能」などと酷評されたらしいのだが、無事、上演にこぎつけることができ、その結末がこの映画にも取り入れられたというわけだ。クリスティーは、この戯曲について、「わたしの書いたもののどれよりも職人芸のすぐれたもの」で、「わたしを劇作家の道へ押し出してくれたのはこの作品であった」と語っており、この作品を契機に、以後、戯曲の執筆にはまっていくことになるのだ。
なお、この作品は、さすがに超有名作だけあって、1987年にソ連で公開されたものを含め、何と五回も映画化されているのだが、現在、DVDで見ることができるのは、最も製作年の古いこの映画だけである。