マザー・グースのメロディに沿って次々に起こる連続殺人を扱った本書は、上質な心理サスペンスが味わえる第一級のミステリー作品で、アガサ・ク リスティー作品中のみならず、ミステリー作品中の最高傑作である。
本書が発表される10年前の1929年、ヴァン・ダインが先んじてマザー・グースのメロディによる連続殺人を扱った『僧正殺人事件』を発表している。
その中で扱われたマザー・グースは、「誰が殺したコック・ロビン」「ハンプティ・ダンプティ」など数こそ多いものの、逆に言うと統一性がなくバラバラで、そのため読者には次に何が起きるかの予想がつかないためサスペンス性に乏しい。
これに対し、本書では「10人のインディアン」というひとつの唄を通して全ての殺人を行っており、孤島という密閉空間の中で次に何が起きるかをある程度予想させることで逆にサスペンス感を盛り上げるという点で、本書の方がマザー・グースが持つ不気味さと残酷性を遥かに効果的に使用しており、『僧正〜』を凌ぐ出来映えとなっている。
なお、エラリー・クイーンも同じ構想の作品を考えていたが、クリスティーに先を越されたため断念したとの逸話も残されている。
(エラリー・クイーンはその後『靴に棲む老婆』でマザー・グース殺人を描いているが、その中で「そして誰もいなくなった」という見出しの章があるのは、その名残だろう。)
また、本書を読んだ横溝正史は、これをきっかけに『獄門島』を執筆するに至ったと、『真説 金田一耕助』の中で述べている。