『大人のアルバム』です。洗礼された成熟さがあります。踏み込もうと思えば踏み込めるし、もっと表現しようとすればそれもできるけど、でもここで留まる・・・といったような。聴き終えたあとの印象に、派手さ、華やかさは残りません。しかし、そこにははっきりとした作り手の『意思』を感じます。私はこのアルバムが好きです。
アナログレコードからCDになって(もう大昔の話ですが)、レコード時代のような、いわゆる「アルバム」と素直に感じられるモノはほとんど見当らなくなりました。どれもシングル曲の寄せ集めのようになって。でもこのアルバムは、まさにアナログレコードの時代に聴いていた全体的な統一感があります。1曲目からラストまで心地よく身を委ねていられる、心安らぐ雰囲気をもっています。本当に久しぶりです、こういうアルバムに出会うのは。そしてアルバムのもつ統一感がこんなにも聞き手を気持ちよくさせる、心地よいものだということを改めて実感することができました。
この作品と松任谷由美のイメージが無意識に重なって、『人生の歩み』とか、『人が成熟していくということ』といったことについての『何か』が、歌詞とメロディーと彼女の歌声が一体となって、頭ではなく、心に響いて伝わってきます。五感で感じる『何か』として。「ああ、これが人生なのか、これが人が刻んできた足跡の重さなのか」といった・・・。言葉にすると安っぽくなってしまうのが残念です。
特にアルバムのラストをかざる『人魚姫の夢』は本当に素晴らしい。今、自分が人生のなかでどういうところにいるのか、その意味を自覚している、分かっている、すべて承知した上で、その現実から目をそらさないで、私は前にすすむ・・・。この曲の歌詞だけを読めば、むしろ人生の儚さを語っているような内容ですが、このアルバムのもつ意味を重ねたとき、そこには儚さだけではない、まだ決してあきらめない先を見据えた『意思』を感じます。
このアルバムを面白みに欠けるという評価も理解できます。それが間違った評価だとも思いません。すべては聴き手が自由に判断することですから。そしてこのアルバムは、そうしたネガティブな評価さえも進んで受け入れているような気さえするのです。