日本経済新聞電子版の2010年5月から10月にかけて連載された6編の短編小説を単行本化したものです。
仕事とは、働くこととは、というテーマにそって力量のある6人の作家がそれぞれの持ち味を生かしながら生みだした珠玉の6編と言えるでしょう。
重松清「ホームにて、蕎麦。」では、仕事人間だった親父の再就職にまつわるエピソードを温かみのある話として巧くまとめていました。出来すぎのストーリーかもしれませんが、家庭をかえりみなかった世代の生き様を通して、働くこと、家族を愛すること、そして「そういうものだろ、仕事っていうのは」という本書のタイトルにもなった言葉が放たれました。確かにそうですね。
野中柊「あの日。この日。そして。」では独身の女性とその恋人の関係があることからおかしくなっていく過程を描いているもので、「なんだろう、女気って」という象徴的なセリフが巧くまとめていました。
初夏の沖縄での休暇を描いた石田衣良「ハート・オブ・ゴールド」は、実生活と休暇の姿のギャップとしがらみを巧みな筆遣いで描いていました。
大崎善生「バルセロナの窓」は、大崎さんの小説によくでてくる熱帯魚好きの主人公の親父と自分の関係の愛憎をサグラダ・ファミリアの旅行を通して、時間と気持ちを結びつけていました。
盛田隆二「きみがつらいのは、まだあきらめていないから」が一番心に残りました。うつ病に追い込まれた銀行員のつらい日常の描き方が実にリアルで働くことの厳しさとやるせなさを描くだけでなく、あることを通して妻との関係が少しずつ変化していく描写もまた秀逸でした。
津村記久子「職場の作法」は、「ブラックボックス」、「ハラスメント、ネグレクト」、「ブラックホール」、「小規模なパンデミック」と4つの短編で構成されています。仕事の進め方、職場での会話、時間との戦いなど軽めのトーンと繊細な描写が巧くマッチしていて、優れた短編小説の味わいを堪能させてもらいました。