良い本には示唆に富むメッセージがあるといわれるが、そういう意味では、本書は著者のメッセージがぎっしりと詰め込まれている。「あとがき」には自分自身の「小言」を綴った作品になったのではないかと書かれているが、それらは傾聴に値する小言だ。本書が読みやすいのは、著者のメッセージが明確になっているからであろう。本書は全9章から構成されているが、どの章の内容も印象的だった。第1章の「すべてを否定しない生き方」には、東儀氏の豊富な経験に基づく人生哲学が描かれているが、読んでいて率直に感じるには、「この人はなんて前向きな人なんだろう」ということ。「一歩出れば、簡単に二歩目が出る」(29頁)というごく自然な意見も、彼が語ると「たしかにそうだ」と深く納得してしまう。なぜだろう。宮内庁に勤務する国家公務員としての雅楽師と芸術家個人としてのそれとの葛藤に悩み、結局、宮内庁を辞することになったときの心境である、「僕は芸術家として生きていくんだということ。どんな方向から説明しても、そこがぶれることはなかった」(126頁)という強い意志。多彩な趣味の話も興味深い。「好奇心、観察力、行動力、向上心、謙虚さ」を5Kと名付けているが、根底にあるのはやはり最初の「好奇心」。本書には、「わくわく」という表現が数多く登場する。自分が興味を示したものにとことん追求する姿勢には本当に恐れ入る。以前読んだ松井秀喜の『不動心』という本には、「努力できることが才能である」という印象に残るフレーズがあったが、これもある種の東儀氏の才能なのだろうか(本人はそう思わないだろうが)。人生をこれだけの「わくわく」感で満たすことができているからこそ、本業の楽師としての仕事も順調なのだろう。「とことん突き詰める」という彼の生き方から学ぶことは実に多い。最終章「日本人の品格」を論じた箇所も一読の価値あり。多くの人に推奨したい一冊である。