この映画はとても散漫ですが、散漫であることが舞台である精神科クリニックのユニークで開放的な雰囲気をそのまま伝えています。この診療所では患者も看護人もいわゆるコスチュームを着ておらず、傍目には誰が職員で誰が患者なのか区別がつきません。もちろんこれも治療の方針なのだろうし、患者と思しき人が交換手を務めたり、患者同士が互いを気遣い助け合ったりしているのを見ていると、そうした治療方法も有効でなかなかユニークだと思います。この映画は精神科のクリニックを舞台にしていながらも、精神病を問題として全面的に押し出すのではなく、そこにいる人々を主人公として精神病を抱えて社会から隔絶していてもこの共同体では一人一人が何かの役割を与えられた一員として描かれています。
ニコラ・フィリベールという人の映画の撮り方はやはり面白いです。私たちは普通、傍観者として映像を眺めることに慣れていますが、この映画はそこに映っている人がカメラを見つめて話し掛けて来たり、フィリベール自身も彼らに向かって発言したりします。フィリベールはこの共同体に入り込み、しかし人々とは微妙な距離を保ちながら暖かい視線を注いでいます。
この映画におさめられているのは精神科クリニックに暮らす人々のほんとうに些細な出来事にすぎません。人によっては退屈だと感じても仕方のないことだと思います。そしてこの映画の意図もよくわかりません。精神病と向き合い理解を求めるというようなことをフィリベールは要求せず、結論めいたものも用意されていませんが、これはラ・ボルド診療所のみなさんと、私たちの出会いの映画なのかもしれません。