この「じてんしゃ日記」シリーズの第2巻にあたる「じてんしゃ日記(2008)」ですが、この中で作者の一人である一本木蛮氏が、サイクリング中に熱中症になった際、バナナを朝食に食べたことが原因であるとの描写があります。
いわく、バナナに含まれるカリウムはナトリウムを体外に排出する性質があるため、ナトリウムを失うと体内の水分もとどまらなくなるとの記述でした。
これは、かなり間違った内容です。
そもそも、ナトリウムを排出するのは、細胞膜にあるイオン濃度を調整するナトリウムポンプの働きによるものです。
このポンプは生命の通貨と呼ばれるATP(アデノシン3リン酸)をエネルギー源にして、細胞の外へナトリウムを排出し、カリウムを細胞内に取り込む働きをします。
しかし、この働きは、ナトリウムとカリウムのイオン濃度差を細胞内と細胞外との間に保つために行うのです。
この濃度差を保つことによって、神経伝達に必要な電気信号をいつでも作り出すことが出来るのです。
したがって、カリウムによって必要なナトリウムが対外へ排出されてしまうというほどのレベルではありません。
運動によって汗をかくと、汗に混じってナトリウムだけでなく、必須ミネラルのカリウムも排出されてしまいますので、バナナによってカリウムを補給することは逆に非常に重要なのです。
人体にはバナナ200本分のカリウムがあります。
しかし、朝食に2,3本のバナナを食べたところで、体内に203本分のカリウムが蓄積されるというわけではありません。
サプリメントをがぶ飲みするわけではないですから、自然食品によって一気に体内でカリウム濃度が上がるわけではないですし、バナナはこの点からも無罪だと思います。
おそらく、「じてんしゃ日記2008」中の誤りは、日本人のナトリウム摂取量が多すぎるために、厚生労働省がカリウムを積極的に取りましょうという指針を出した際に、「ナトリウムを排出する役割がある」という記述を誇大に解釈した結果だと思います。
カリウムがナトリウムを体外に排出するのは、長期的なバランスを見てのことであり、そんなに急激な変化ではありません。
そんなわけで、皆さん運動前や運動中に脱水症状を恐れるなら、逆に積極的にバナナを食べましょう。
もちろん水分とナトリウムも必要なだけ摂取するべきです。