■「しらみつぶしの時計」
1分ずつ異なり、全部で24時間を表す、
1440個の時計が配置された回廊。
「きみ」は6時間で、正しい時を示す
時計を見つけ出さなくてはならない……。
臨場感溢れる、二人称の語りによるタイムリミット・サスペンス。
唯一の正答が論理的に導き出せる、と保証されていることから、
難癖をつけるクレーマー的詭弁を封じ込めるようにゲームが構成
されているはずだ、というメタ視点に基づいた推理がなされます。
アナログ時計とデジタル時計が混在する
時計群から、選び出すべき組み合わせとは?
そして、ゲームを象徴する図形だという
ランドルト環(視力検査の「C」)の意味とは?
トンチの効いたラストが秀逸です。
■「盗まれた手紙」
二つの南京錠によって保護された頑丈な鉄の
状箱から、いかにして手紙を抜き取ったのか?
ポオの小説に同名のものがありますが、本作は
ホルヘ・ルイス・ボルヘス「死とコンパス」の前日
譚を意図して書かれたもの。
「死とコンパス」は、《後期クイーン的問題》を凝縮したような作品です
が、本作は、それとは真逆なパズル的興味が前面に出されています。
探偵レンロットは、事件を連立方程式に見立て、二つ
の南京錠と鉄の状箱からなる多項式を導き出します。
■「イン・メモリアム」
デイヴィッド・イーリイ
「ヨットクラブ」に倣い、
「謎の結社」を題材とした、ショート・ショート。
■「猫の巡礼」
年をとった猫は、前半生のけがれを祓うため、足腰が
しっかりしているうちに、猫の聖地へ巡礼に赴くらしい……。
心温まる、非ミステリな幻想譚です。
■「幽霊をやとった女」
都筑道夫作品のパスティーシュ。
お定まりのシュチュエーションのもと、外套という小道具を巧みに
使うことで、往年のハードボイルドのテイストが再現されてます。
■「使用中」
駅ビル内の喫茶店で、「密室」テーマの短篇について
打ち合わせをしていた中堅推理小説家と新人編集者。
急に便意を催した二人は、駆け込んだトイレで、
それぞれ思いもかけない災難に遭うことになる。
一人はトイレの個室で殺され、もう一人は、同じ個室の中で、死体と
いっしょに閉じ込められ、出るに出られない状況に追いこまれたのだ……。
スタンリイ・エリン
「決断の時」を下敷きにした作品。
下ネタ入りのドタバタ劇ですが、「密室の中に被害者以外の第三者が
閉じ込められる」という状況設定を巧みにリドル・ストーリーに処理した
快作です。
■「ダブル・プレイ」
妻に対し、憎しみを募らせていた省平は、
バッティング・センターで知り合った男に、
交換殺人を持ちかけられる……。
『法月綸太郎の新冒険』所収の
「リターン・ザ・ギフト」の姉妹編。
交換殺人が、より狡猾な犯罪計画の
一部にすぎなかったことが、結末で
明らかになります。
真相を暗示する、タイトルもお洒落。
■「素人芸」
妻が、無断で高価な腹話術の人形を買ったことに
腹を立てた保雄は、衝動的に妻を殺害してしまう。
その騒ぎを聞いた隣人が警察に通報し、
二人の警官がやって来るのだが……。
ロバート・ブロック
「最後の演技」のテイストを目指したという作品。
腹話術の人形といった小道具で、ホラー的雰囲気を
醸成したかったのでしょうが、生々しく殺伐とした
夫婦関係とのギャップが激しく、成功しているとは
言いがたいです。
ただ、そのちぐはぐな感じが逆におもしろく、
脱力する結末も含め、味わい深い一品です。
■「四色問題」
戦隊物のヒロインだった女性が、腹を刺されて殺された。
死の直前、なぜか被害者は左手にはめていた腕時計をはずし、
そこにナイフで、アルファベットのXのような傷を刻んだという……。
都筑道夫
《退職刑事》シリーズのパスティーシュ。
判じ物的なダイイング・メッセージに、退職刑事の
昔の事件の回想がからむという趣向は、シリーズ
後期のパターンに倣ったものだそうです。
タイトルの「四色問題」は、あらゆる地図で隣りあった国どうしがおなじ色に
ならないよう、四色で塗り分けることができるかどうかを数学的に証明する
問題のことで、それ自体は、本作の事件となんの関係もありません。
「色」に関しては、被害者が演じていた戦隊物と、彼女が以前
就いていた、ある職業の専門知識に着目する必要があります。
■「トゥ・オブ・アス」
『二の悲劇』の原型となったデモ・バージョン。
短篇であるため、トリックの仕組みは長篇版よりもクリアでわかりやすいですが、
二人称叙述の挿入という作品の主題と連関した趣向がなく、人物の掘り下げも
浅いため、物語としては、どうしても奥行きや深みに乏しいものとなっています。
ちなみに、タイトルの「トゥ・オブ・アス」は、
『ふたたび赤い悪夢』、
『二の悲劇』の作中に出てくる映画の題名であり、作者にとっては、
二人の従兄弟の合作者エラリー・クイーンを含意する言葉だそうです。