現代日本における"好事家"、なかでも"オタク"のルーツは、ある種の正史としては1980年代に活躍した岡田斗司夫氏をはじめとする流れということになると思いますが、精神的な意味では、私は植草甚一氏にあると思っています。裕福な家に生まれながら、関東大震災、その後の没落を経験した氏の生涯から一貫して感じられるのは一種の無常観、"その時を楽しむ"という精神であり、それが"新しいもの"への強い嗅覚、味覚につながっていった。と勝手に推測しています。中でも、映画評論で身を立てつつも50代を過ぎてジャズに目覚め、鬼のようにレコードを買い漁る氏の態度、またそれよりも前の、戦時中の言論統制、空襲の恐怖といった中で東京から一歩も出ずに自分の好きな映画を流し、空襲から映画館を守り続けた氏の姿勢からは、ドン・キホーテ的なおかしさを感じながらも、強い気骨も感じられます。
私は映画評論に詳しくなくジャズもよくわかりませんが、植草甚一氏から学ぶべきものは、特に現在オタク的な分野に興味を持っている人には多いと思います。"したくないことはしない"それはすなわち"やりたいことをやるためにはそれなりの覚悟がいる"ということでもあると思うからです。この本からは、周辺の人物への取材や植草氏の自著から、氏の人物像を掘り出して読みやすく解説しています。1990年代にテレビ朝日で放映された「驚きももの木20世紀」の映像と併せて観ると、より楽しめると思います。