本書には,道徳心理学やポジティブ心理学のテキストとして,あるいは心理学一般のテキストとしても用いることができるほど,多岐にわたる情報が埋め込まれている。応用的な側面,啓蒙的な側面が強いが,決して啓蒙書ではなく,科学的な専門書であろう。引用文献のリストがしっかりしてあることも高く評価できる。
とはいえ,切り口は大変面白く,訳者の表現の力もあろうが,文体は大変平易で読みやすい。わかりやすい表現で話が進むので,読むのに苦労するようなことはない。人間性の「像と像使い」といったメタファーは,心理学の初学者にも大変わかりやすい。
8,9,10章は,「徳の至福」,「神の許の神聖性」,「幸福は『あいだ』から訪れる」と仰々しく題されているが,内容は本当に著者のメッセージが強く表れるところで,宗教と心理学の融合といった学問的テーマとしても重要な問題にたいする鋭い洞察,コヒーレンスという著者なりの一つの答えが述べられるところは,大変興味深く,勉強になる。宗教的な内容についても,著者が繰り返し自分は無神論者だ,というように,ユダヤ教やキリスト教にだけこだわって説法するのではなく,仏陀の教えなど東洋的あるいは通文化的な事例を持ち出して話をするところが,誰にとっても読みやすくなる一つの要因だろう。
社会心理学や臨床心理学,文化心理学など様々な心理学者だけでなく,「幸せについて本気出して考えてみた」い,という人は読んでみるべき一冊。