冒頭から、満腹な人も再びお腹が空いてしまいそうなシーンの連続。トマトと卵の炒め物から始まり、蟹シュウマイ、炒飯、スープ等々、料理の映像が素晴らしい。音と映像だけで、卵のふんわり感、味とかおり、湯気までが伝わってくる。シンプルでありながら撮影角度や音響効果だけで魅せてくれます。
ワンさんが中谷の依頼を一言のもとに退けるのは、予想できるし、彼女がそれに懲りず、何度も通い、願いを達成しようとするであろうことも予想どおり。そして、そのうち、中谷にとって、営業の仕事はどうでもよくなってしまうであろうことも想定内。(笑)
そして、彼女のいまは亡き父親が料理人であったことが、部屋に飾られている写真で暗示されるので、彼女がいずれはワンさんの弟子になるであろうことも予想できます。
ことほど左様に、本作には、予想を裏切るドラマはほとんどありません。それでいて面白いのは、中谷美紀と藤竜也の演技と、貴子が王の心を徐々に開いていくところを丁寧に描いていること、ディテール表現のきめの細やかさのおかげでしょう。
店に野菜を納める農家の息子(田中圭)との間に、ほのかな恋が芽ばえそうな暗示もあるりますが、さらりいう感じ。また、ワンさんを何十年にわたってサポートしている加賀友禅の工房主という設定の八千草薫が登場しますが、彼女ともある種の「健全さ」があります。
あえて言えば、そのあたりが弱さであり、また強さであると言えないこともないですかね。(笑)
中谷美紀は、「鍋振り」にチャレンジし、最後には、2キロの鍋をプロっぽく操るまでになったそうで、本作でも女優根性を見せた格好ですね。