椎名誠らしさを味わうには、著者自らが「スーパーエッセイ」と呼ぶ、題材も文章も好き勝手で八方破れの初期の作品――『さらば国分寺書店のオババ』(椎名誠著、三五館)、『気分はだぼだぼソース』(椎名誠著、三五館)、『かつをぶしの時代なのだ』(椎名誠著、三五館)を読むに限る。それはこんな具合だ。「かつをぶしはたべものの王様であります。たべるものがなにもなくなり、旦那様、とうとう我が家の食糧が尽きました。わたしの全部着物も売りました。かくなる上は身を売って・・・などと妻が悲壮に三つ指突いて詫びにきたとしても、このかつをぶしと少々のコメ、わずかばかりの大根の切れっぱし、それにひとしずくの醤油さえあれば、私は笑って許してやることができる。かつをぶしさえあれば人間は不滅であります。かつをぶし料理は簡単である。しかし簡単であるが安易であってはならない。このへんがかつをぶし料理の要諦であります」。
「夕陽にむかい背を丸め痛恨のチーズケーキ九六〇円の春」「ある日、悲しみのドアをあけるとバランタインの水わりがあった」といった章のタイトルからも分かるように、著者のやりたい放題である。