レビューを書いていて気づいたのですが、実はこの一冊が、作者にとってのはじめての短編集ということになります。第一話「女王様の歌合戦」だけが雑誌掲載で、あとの四編が書き下ろしという連作短編形式になっています。そのどれもが非常に完成度が高く、なおかつなめらかな連続性を持っているので、短編集だと気づかない人もいるかもしれません。
合唱コンクール、体育祭、そして文化祭、高校の主要なイベントがすべて一冊に詰め込まれていながら、どのイベントも過不足なく使われていて、作者の短編の巧みさにため息が出ます。特に気に入っているのは第三話の体育祭を描いたエピソードで、体育祭にまでしっかりとテーマである音楽をからませてくるのだから大したものです。
また、じれったい二人の恋物語を進展させるお約束としてライバルキャラが登場します。ライバル出現はあらすじで予告されていたので、真冬の気持ちが他の男に揺らいだりするのは見たくないなあと思いつつ読んでみたのですが、実際にユーリが出てきたときには「その手があったか・・・」としてやられた気持ちでいっぱいになりました。たしかに真冬を巡って争うライバルではあるのですが、同時にしっかりとナオに惚れてしまうヒロインでもあるというこのキャラクターは、恋物語におけるライバルキャラがどうしても醸し出してしまう「嫌み」を非常に斬新な形で回避しています。実のところキャラの魅力でいうと作中トップです。
ユーリがバイオリニストであることもあって、前巻のややロックに偏った流れから、この三巻はクラシックが多く取り上げられることになります。広汎な音楽知識の織り込み方も見所です。