基本的な情報を書いておこう。このアルバムは、ハヤシライスレコードから2009年の1月にリリースされた、前野健太の第二作目にして、名盤である。
名曲「鴨川」のイントロは、雨雲の下であるにも関わらず、きらきらと光る水面である。「青い家」と指摘されるホームレスのブルーシートの家、「狭い街に人間が降る」と悲観される新宿の様子。三分間のこの美しい曲は、”詞の言葉”により異化された風景が鮮烈なイメージを残す。
君と僕(のすれ違い)などというあまりにも原始的で稚拙なモチーフの裏で、巨大マンションへの得体の知れない不信を吐露する「マン・ション」も優れた楽曲である。そこで歌われる「ちんぽみたいな大きなマンション」はこのところ都心だけでなく、郊外の駅前にも突如乱立し始めている。
計三十数分のこのアルバムの通奏低音は、”一人”である。ギター、ベース、ドラム、ピアノ等は全て前野自身による演奏だ。上記の「マン・ション」や、表題曲「さみしいだけ」における男女(?)のやり取りも全て前野一人によって歌われる。弾き語りによって一人称の”僕”だけを歌うことはあまりしない。一人で複数の役を歌い演じ、多重録音を重ねた末に、逆説的に浮き彫りとなるのはたった一人の前野健太である。
もしかしたら、前野は一人の孤独に耐えられないのかもしれない。しかし「メッセージ」に歌われる”ヤマアラシのマゾヒズム”とでも言うようなものまでをも巻き込む、複雑怪奇な人間関係の不調や妙なすれ違いは、確実にある。それでも、「さみしいだけじゃいやかな」という問いには「そんなのイヤよ」と答えずにはいられないのだ。