本書を読了後、この物語を振り返ってみると、
「鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがなく、
平生はみんな善人であり、それがいざというまぎわに、急に悪人に変わる。」
と言う先生のセリフが全てを物語っていると思った。
これは先生の遺産を騙し取った叔父の事を指しているのと同時に、
Kを出し抜いてお嬢さんと結婚しようとした先生自身のことでもある事実が、最後の先生の遺書で明らかとなる。
まさに人生の皮肉とも言うべき悲劇であるが、最近たまたまシェイクスピアの「ハムレット」を読んだばかりで、
復讐する側であったハムレットがいつの間にか復讐される側に立たされてしまうというアイロニーと共通するものを感じたのは私だけだろうか?
(漱石がシェイクスピアに深く傾倒していたことでもありますし・・)
先生がありのままを妻に打ち明けなかった事について、他の読者から否定的な意見も聞かれたが、
「それをあえてしない私に利害の打算があるはずは無く、ただ妻の記憶に暗黒な一点を印するに忍びなかった」という先生の心情が、妻子持ちの自分としては非常に良くわかった。