本書の優れた点。ひとつは、読んで面白くない、つまり文学的には優れていない台本でも、演劇として面白い、優れたものがあり、それが何故かという点を、分りやすく解説している点。二つ目は、今までの能の解説があまり踏み込まない点、セックス、エロスを能がどう扱っているかについて、詳しい点。能には呪術的な意味合いがあり、高砂の老人の男女や、羽衣の天女と漁師など、主役が男女一対である場合、「神代よりの伝統である男女和合の霊力を象っている」という。三つ目は、聴く詩歌としての謡曲の美しさについて、わかりやすく語っている点。初心者は得てして聴くものとしての能という見方をせず、観るべきものとしての能と捉えがちだが、謡曲は本来聴くものであり、その一例として松風の詞章の美しさをあげている。言葉の力としての能。四つ目には、高尚な、幽玄な能だけではなく、観て面白い類いの能もあること。例えば土蜘蛛。スペクタクルであって、そこに高尚な意味を読む必要はなく、「めでたい気分が満ち、それが国家安泰の祈願ともなり、見所の人々への平和の予祝ともなる」。なるほど。
他にも優れた点は沢山あるのだけれど、今まで見ていた能がぐっと身近になり、深い見方が出来るようになると思うので、初心者向けではあるが、恐らく能を深く考えずに見てきた人にも新鮮。