『この落語家を聴け!』(以下、『聴け!』)『この落語家に訊け!』(以下、『訊け!』)(ともにアスペクト社刊)に続く著者3冊目の落語関連の本。
この本は「モーニング」に一年間連載されたものをまとめたもの。 落語をよく知らない人向けに書かれたものなので、『聴け!』、『訊け!』よりも当然初心者向け。
以下感想などをいくつか。
1.とにかく面白い読み物
広瀬氏の著書に共通していることだが、全体の構成がすばらしい。流れがあり一挙に読み物として読める。書き下ろしの『聴け!』は当然として、インタビュー本の『訊け!』、そして特に本書は週刊誌連載なのに脈々とした流れがある。全体として一冊の読み物として楽しむことが出来る。著者の頭の構造はどうなっているのだろう?執筆計画が相当しっかりしていたのかな?
2.落語の入門書として最高
その週開催される落語会と出演する落語家の特徴がわかりやすく、かつ落語ファン広瀬氏の視点で興味深く紹介されている。そしてなんと言っても楽しいのは、勝田文さんの似顔絵である。知っている落語家が出ていたら思わずニヤリである。またその似顔絵が描かれた内幕が巻末の著者と勝田さんとの対談で紹介されているのも楽しい。『聴け!』もガイドブックとして書かれているが、あくまで落語に興味を持った人向けのガイドブック。本書は落語って何?と言う人にも面白く読める本だろう。
3.落語マニア向けの落語家論として
『聴け!』について、著者は落語のガイドブックと言っているが、現代の落語家論として最高の本だと思う。本書は『聴け!』の内容を初心者向けにかみ砕いたような内容であるが、『聴け!』に取り上げられていない、五代目圓楽論、圓蔵論、扇橋論、小朝論などにもふれられていてマニアにも興味深い内容になっている。
特に小朝師についての解説は白眉であろう。私は小朝師と同じ年に生まれたが、小朝師への期待、失望など様々な思いを抱いてきた。小朝師の落語家としてのすばらしさ、プロデューサーとしてのすばらしさ、そして落語家としてファンが感じる物足りなさについてこれほど見事にまとめたものはない。
また六代目圓楽師の稿で書かれている先代圓楽師についても、数々書かれた追悼の文章にはない圓楽師の評価に感心させられる
4.現代に生きる落語家のガイドブックとして
本書の特徴として、二つ目の落語家さんが何人も取り上げられていることも楽しい。ライヴを数多く聴き続けている著者ならではの人選+紹介である。
広瀬氏、一押しの一之輔さんを今春初めて聞いて納得したし、「下手だけど面白い」こしらさんにも腹を抱えて笑った。それ以外にも、わか馬さん、こみちさん、天どんさんなどへの愛情あふれる期待と紹介にも納得。
5.最後に
本書の原形は’09年から、’10年にかけて連載されたものである。ほぼ同時期に著者は『訊け!』のインタビュー本もまとめている。そしてまた同じ頃、「青春と読書」誌(集英社)に『現代落語の基礎知識』という連載を十回にわたって連載した。私はこれもずっと楽しませてもらったが、“観客の立場からの落語論”として非常に興味深い内容であった。広瀬氏のファンとしては『訊け!』のインタビュー、そして本書の背景にある落語論として『現代落語の基礎知識』も早く一冊にまとまると良いな!と思わずにいられない。