私は全国各地で仕事をしており、古代史に関心があることもあって、地名については特に興味を持っている。
しかし、各地で出会う地名の由来については、これまで、眉唾ものの語源俗解が多いという印象を持っている。
単なる当て字に過ぎない漢字から意味を探っているものが多く、後世の解釈が混じっている古事記・日本書紀・風土記などの記述やアイヌ語・韓国語などの音から地名の成り立ちを推測するのであるが、しばしば「ほんとかなあ」と感じていた。
これに対して、楠原氏は、和語の原点に立ち返り、特に、災害履歴と地形との対応から、地名に刻まれた災害危険地域に対して、警鐘を鳴らしている。
阪神淡路大震災や東日本大震災の経験からみて、地震の直前予知が不可能であることが明らかとなった現在、過去の全災害履歴から危険性を判断することが求められており、地名から災害履歴を探る「災害地名学」とでも言うべき本書の方法は大いに参考にされるべきである。
例えば、「桜島」は「裂く」からきた地名であり、「女川」「小名浜」は「おなみ(男波)」からきている、「灘」は「雪崩」と同じく、「な(土地)が垂れる(崩れる)」からきている、などの解釈は、目からうろこであった。
福島第1原発近くの浪江、牛渡、樋渡、棚塩や、福島第2原発近くの「波倉」が今回の津波の浸水地域になっていることは、過去の大津波の痕跡を示しているのではないか、などの著者の指摘は重要である。
しかし、いくつかの、疑問点もある。
第1は、活断層や土砂災害危険地域、津波被害地域などが全国各地、どこにでも見られることからみて、どの地名も災害と結びつけることが可能であることである。他の可能性を含めた比較検討が求められよう。
第2は、縄文時代に海面が現在より4m高かったことや、土砂の堆積作用によって、かつての海岸線がもっと内陸部であったことから、内陸部に海に由来する地名が付けられた可能性である。
第3は、各地にみられる地名は、古代人が各地に移住した際に、同時に地名を移した可能性があることである。ちなみに、私の母の実家は「浦部」という集落名であるが、町史は「卜部(占部):うらべ」という亀卜(きぼく:亀甲を焼いてできた亀裂の形で吉凶を占う)を職業とした品部に由来する説をとっている。私も地形から見て「浦」という地形に由来した地名とは考えにくい、と考えている。北海道の地名を見ても、移住者の出身地の地名が付けられている例も多く、その地の地形や災害伝承に由来しない可能性があることである。
新書版の限られた紙面の都合上、以上の1〜3については書き込まれていないだけかも知れないが、門外漢が本書だけを読んだ印象として、あえて挙げさせていただいた。
「和語語源論」「現場主義」の「災害地名学」により災害に備えることは重要であり、本書を元に、各地でさらに多角的な検討が進められることを期待したい。