この本の欠点は、解説がないことだ。連載時の時代背景を知らないと、単なる雑学として読んでしまう。
「現世のことも彼はあくまで歴史に取材して遠まわしに、しかし本質的に語ろうとする姿勢を崩そうとはしなかった」が「彼は間接的にしろ、つねに敏感に反応した」
(関川夏央『
司馬遼太郎の「かたち」―「この国のかたち」の十年』より)
昭和天皇崩御時には、昭和天皇と天皇機関説について書いている。「無題」である。
司馬翁が原稿に同封していた、白石勝編集長への手紙によると、
「天皇は、戦前もそうでしたが、戦後もことさらに論すべきものではないのです」と、「ことさら」にしないようタイトルを「無題」にしたというのである。関川は「おそらく当初は尋常な題名が付されていたと思われる」という。
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昭和一ケタあたりにうまれた人達は、太平洋戦争が絶望的段階に入った昭和十八年には……鋭敏な少年の感受性をもっている。そのくせ社会や政治の情報を適度に判断できる……そういう少年たちが、天皇陛下のために爆弾を抱いて敵の戦車にとびこめとか、竹ヤリでアメリカ兵を突き殺せといわれれば、それが絶対価値になってしまう。……「天皇」とは、畏敬以上に恐怖の名称だったろう。
軍がわるいという以上に、国家も国民も、憲法を守る上で不熟だったということだろう。……(帝国)憲法によれば天皇の位置は空で、いっさいの責任がない。…たれに責任があるのかという議論はまず憲法論からはじめられるべきだのに、それが怠られているように思われる
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また、明治時代の汚職事件をテーマにした「汚職」は、リクルート事件に際した稿である。
【収録タイトル】
紋/天領と藩領/婚姻雑話/土佐の場合/肥後の場合/華厳/ポンペの神社/金(きん)/カッテンディーケ/江戸景色/十三世紀の文章語/典型/無題/汚職/職人/聖(ひじり)/会社的“公” /一風景/師承の国/ザヴィエル城の息子/GとF/市場(しじょう)/越と倭/スギ・ヒノキ/あとがき