チェーホフ論が面白い。
チェーホフは44年の短い生涯で目覚しい演劇革命を成し遂げた。
一に、主人公という考え方を舞台から追放した。
二に、主題という偉そうなものと絶縁した。
三に、筋立ての作り方を変えた。戯曲から物語性を追い出した。
こチェーホフから、井上さんは多くのものを学んだのである。そして次のような考えに至った。
「ちゃんとした喜劇作者は、普通の人達の生活を凝視する。喜劇の題材は、普通の人達の日々の暮らしの中にしか転がっていないからだ
さらに彼は(その度合は様々であっても幾分かは)社会改革家にならざるを得ない。自分を含む普通の人たちの生活を見つめているうちに
たいていの人たちが、たがいに理解し合うことを知らないためにそれぞれ物悲しい人生を送っているという恐ろしい現実を発見するからだ」
「喜劇作者は社会改革家にならざるを得ない」という命題にはぼくは賛同できないが、
この考え方が井上さんの基本姿勢だったことがよくわかる文章である。