舞台は戦中の広島。
昭和19年2月、昭和19年3月――というふうに
ほぼ月単位で、こうの史代さんのあたたかなタッチで淡々と日常が描かれる。
スクリーントーンを使わず、ペンだけで描いていくこうのさんの絵柄は
どこまでもあたたかい。
絵が好きな「すず」は軍都・呉に嫁いでいき、
そして少しずつ状況は重苦しくなっていく……。
とくに反戦を強調するでもない。説教臭くも押しつけがましくもない。
極端な政治的バイアスがかかっているわけでもない。
ヒステリックに反戦平和を叫ぶでもない。
登場人物はおおむねみんな大らかで明るい。
しかし、今から60数年前にこういう時代があったことを
私たちはきちんと認識しなければならないと思う。
明るく健気に生きる主人公たちだが、おそらくこれから下巻にはいると
空襲や原爆なども描かれるのだろうと思う。
「夕凪の街 桜の国」で高く評価されたこうのさんのタッチが
いま平和に生きる私たちに「戦争」というものの意味を語りかける。
著者はそこまで意識してないかもしれないが、
やはり戦争は避けるべきものだし、起こってはならないものだと私は思う。
もちろん、戦争論はそういう情緒的なひと言で片づけられるものではないと
わかっている。だがしかし、果たして戦争の是非を論じることに意味はあるのだろうか。
戦争は、この本で描かれているような、貧しくとも平和な日常を破壊するものなのだ。
世界では各地で戦争が起こっている。虐げられて立ち上がった戦争もあるが、
大国がバックについている戦争もある。
それらをここで論じようとは思わない。
ただ、世界の片隅で起こっていることでも、その痛みを私たちは自分のものとして
感じる努力をしなければならない――と、この本を読んで改めて思う。