この本は、「平和に生きる」ということの尊さをしみじみと感じさせます。物語は昭和9年1月の「冬の風景」から始まり、昭和21年1月の「しあはせの手紙」で終わりますが、前後編一気に読み通してしまいます。絵描きの好きな、少しぼんやり気味の《すず》という女性に仮託した「戦争」の話は、淡々とした戦時下の生活風景を描写しながらも、その時代を体験した多くの日本人に共通する“悲しみ”が心の底からじんわりと伝わってきます。
私は、戦後生まれですが、亡くなった両親から「戦争」と向き合った暮らしぶりを聞いていました。この度の東日本大震災そして福島での原発事故など、日本人にとって《忘れてはならない事》は多々あると思いますが、そうした中にあって、先の「戦争」を振り返り、庶民の《記憶》として長く留めておくべき“悲しみ”が、こうの史代さんのこの作品にそっと込められています。是非とも昭和の「戦争」を知らない方々の目に触れて欲しい冊子です。
ところで、普段、地上波の民放ドラマを見ることは皆無の私ですが、8月5日(金)9時からこの本を原作とした「終戦記念ドラマスペシャル」が日テレで放映され、妻と鑑賞しました。配役陣の評価はさておき、ドラマの展開としては「後編」p.122~123の場面からスタートした方が良かったような気がします。《すず》のアイデンティティを支える「右手」の回想(記憶)から踏み出すことで、この番組がより効果的、印象的なものになったと思います。