ゲイミステリなるものが世の中にあることは、この本のことを他の創元推理文庫の目録で見るまで知らなかった。ジェンダーにおいて特に軋轢を持たないわたしが、おいそれと手を出していいものだろうかとも思いながらも、興味を持ったので恐る恐る注文してみた。で、中身はというと、いたって逸脱のない生真面目なミステリだった。
いや、ミステリとしては詰めが甘い部分もたくさんある。けれど、この作者がこの先どんどん技巧を増し、深く世界と対峙してゆくことの前哨戦としては充分であるといえる。なんといっても、主人公の弁護士ヘンリー・リオスの率直さがとてもいい。人生に疲弊しながらも疲弊におぼれず、愛した、という混じりけのない思いを胸に戦ってゆく。韜晦や躊躇や建前を隅に追いやって、弁護士としての彼なりのやり方で愛に報いようとする。複雑でありながらまっすぐという、不思議な主人公である。キャラクター構築がこの時点ではまだ未熟なのだと言えないこともないかもしれないが、わたしはこの人が好きになった。
ぼんぼんで弁護士のもと恋人や美形の刺客、なぞのモテモテ感など、ゆるゆるの要素をあいだに挟みつつも、語り口はとても真っ当なところに着地する。そして、翻訳されている上での最近作である「秘められた掟」を読み終わると、この頃のリオス、ならびに物語の、無邪気さや向こう見ずさやゆるさを、切ないぐらいにゆかしく思う。