小さい頃あるラジオドラマが好きだった。当時も今も音声ドラマはマイナーなジャンルだが
文字・視覚で吸収した物語が記憶されるように、音・聴覚を頼りに紡がれる物語もまた独特の面白さと心地良さがある。
音のみで具体的に動き始める登場人物たちは、映像の強要がない分自分の想像に任され、より身近に感じる。
「こころ」を読んだのはもうずっと以前、細かい部分は忘れたが、読み返さずに休前日の夜ゆったりと聴いてみた。
古い日本語で語られた物語は、新しい「こころ」として「先生」の遺書を中心に始まり、そして終わる。
時代性とはいえ高等遊民・知識人たる先生の恋の苦悩や回想は一歩引いてしまうほど歪んでいる。
最初に登場する先生と私の声、その響きが意外にも力強い。
原作の通り、話のキーパーソンはK。両者とも、落ち着いた深みのある声で淡々と語る。「私」は少し表現力が弱いかなと思ったが、芯が強く、けれど控えめな空気感がこの「私」の青年像にとてもよく合っていた。
先生が吐露する言葉、彼らの想いが交錯する様を、緻密な感情表現によって丁寧に場面は流れていく。その結末は、小説の読後の鬱な余韻に上書きされることなく、哀しくもきっぱりと閉じる。
良い作品はそれなりに消耗するようで、終了後そのまま眠ってしまった。また繰り返し何度でも聴きたい。
同じ製作元から年内中に「銀河鉄道の夜」が出るそうだ。本作よりずっと好きな作品なだけにとても嬉しい。次回作も期待。