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本作は「一少年が『オタク』を目指す成長物語」の皮をかぶった、「良質な
シチュエーション・コメディ」だ。物語は最初、オタク趣味を持ちながらも開き直れ
ないでいる主人公 笹原が「現代視覚文化研究会」、通称「現視研」に入会する
ところから始まる。いわゆるオタクの「大学デビュー」。
冒頭で「濃い」オタクである仲間達に「オタクの何たるか」を教わってゆく笹原を
見ていると、本作は「成長物語」であるかのような印象を受ける。「成長物語」と
言うからには「目指すべきモノ」が必要なワケで、「オタク」もついに「目指すべき
モノ」になったのか……と思うと感慨深い。
「父さんにもぶたれたことないのに」のセリフや、デギン・ザビらしきキャラの
ポスターなど、オタクネタのパロディが随所挟まれているのも面白かった。
「げんしけん」が面白いのは、第一にシチュエーション・コメディとして良く
できているから、というのが理由だと思う。あとはやはり、キャラクター配置が
絶妙なコトだ。本作の人物設定には「オタクVS一般人」の対立構造が作られている。
「濃いグループ」に対し「一般人視点からのツッコミ」が入るコトで、両作は絶妙な
バランスを保てるのだ。
しかし、気になるのは木尾士目という作者の視点だ。どう考えてもこの人自身が
濃い「オタク」であろうことは間違いないのだが、この作者は同時に「非常に
リアルな一般人の視点(春日部)」も見事に描ける。作者が「対立構造」の
重要な一翼である「一般視点」を見失わなかったからこそ、この作品は面白いと
思うのだが、いかがなモンか。
今のところ「げんしけん」は間違っても「一般ウケ」している作品ではないと思う。
けれどもそれは「一般ウケしにくい」作品というコトと、決して同義ではない。
「野球をネタにしたコメディ」を楽しむのが必ずしも「野球ファン」だけで
ないように、「げんしけん」は「オタクをネタにしたコメディ」として、
非オタク層でも充分に楽しめる作品であると思うのだった。……手に取ってさえ
もらえれば、ね。
この漫画を、実際にオタクである人が読めば、ある種「内輪ネタ」的な、「あるあるー」「元ネタはあれだよねー」といった楽しみ方ができる。しかし、あくまでそれ以上のものではない。むしろその真価は、非オタク、あるいは少しオタクを知っている読者が接した時にこそ、発揮される。自分とは異なる日常を、当然のこととして生きる者の「生態」の観察として。
そうした読者の視点の違いは、登場人物の群像を見ると、よく理解できる。すでに〈オタクである者〉、これから〈オタクになろうとする者〉、外見は美男子なのに〈誰よりもオタクである者〉、彼に惚れてしまった〈誰よりも非オタクである者〉。全ては、オタクと非オタクの「境界」をめぐっての愛憎である。読者は登場人物の誰かに自分の立場を見出して、「オタク」を観察することになる。理解できるにしても、できないにしても。
しかし思うに、この「境界」に最も複雑な思いを抱いてるのは、誰でもなく作者自身だろう。一方ではオタクの世界を詳細に描きながら、一般人の視点やオタクへの嫌悪もちゃんと知っている(これ以前の作風は、全く非オタク的だった)。作者こそ、まさに「境界」の真上を漂い続けているように思われる。
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