山川の『詳説世界史研究』と競合する商品で、あまり普及しているとはいえないと思うが、もっとこの良書に目を向けてほしいと日頃から思っているのでレビューを書かせていただいた。
一つ一つの歴史的事象に、著者の先生方が懇切丁寧な解説を加えている。出来事の経緯や因果関係の説明に並々ならぬ「こだわり」が感じられ、文体も平明簡易で分かりやすく、何より優美で格調高い。ある意味で「検定教科書よりも理想的な教科書」といえるかもしれない。それぐらい含蓄のある深い説明がなされている。単なる「用語の量」について見るならば、ライバルの山川『詳説世界史研究』や数研『チャート式』が若干上回っているかもしれないが、はっきり言って大差はない。瑣末なことよりもむしろ、重大事件の背景紹介や歴史全体を広い視点から捉えることに力点が置かれている。これは他の詳しい参考書にはない特徴である。
もちろん、この本を「受験の近道」タイプのシステマチックな参考書だとは思っていない。全ページ白黒印刷であることや、重要語句がゴシック体になっていないことなどは受験生から敬遠されるかもしれない。しかし、じっくり読み込めば、時代のイメージがグッと身近に感じられる素晴らしい世界史概説であること請け合いである。最終的には、通俗的な参考書で学習したよりも一段高いレベルの教養が身につくだろう。
気になる点がまったくないわけではない。例えば、オスマン帝国やムガール帝国などは突っ込んだ記述がなされているのに、明朝・清朝に関する内容は薄い。世界史的意義から考えると、ややアンバランスである。万暦帝や康熙・雍正・乾隆の三大帝についての事跡は、もっと思い切って紙面を割いてもよかったのではなかろうか。第2次大戦後の現代史に関しても、簡潔にまとめようという意図が裏目に出たのか、それ以前の記述に比べて荒削りである。
ただし全体を見渡すと、バランスには十分に配慮しようという著者・編者の意図が窺えるし、特定の事項に傾斜している印象は受けなかった。人間が書いているのだから、どんな歴史書でも多少の偏りは出るものであって、本書の場合は明・清の項目を含め格別の問題はない。
いずれにせよ、少し回り道をしてでも、世界史の理解を深めたい意欲的な学習者に勧められる。読書が苦にならないのなら、浪人生だけでなく現役生にも勧めたいし、世界史を再学習したい社会人には尚のこと推薦したい。
著者の世界史教育に対する熱情が感じられる名著だと思う。