あらすじや概要は他の方がすでに丁寧なレビューで説明されているので、省きます。
物語が冬休み期間に設定されていることと、ペンタッチで入れられた影から、寒々しく空虚な「しょう」の内面が伝わってきます。
「しょう」に比べ圧倒的に線の量(ベタなどの塗りつぶし)が抑えられた「ちはる」のデザインも、儚さより幽霊のような存在感の乏しさが伝わってきます。
一見、繊細で潔癖な印象のある絵柄はとっつきにくさを感じさせますが(表紙から見てわかる通り、変わったタッチで画面を作る方のようです)、意外なほどすんなり読ませてくれます。
暗い場面が続き緊張したところに、ふと力の抜けるやり取りを挿入したり、
登場人物が普通の生活をする中で、正しさだけで人を追い詰めてしまったり、すれ違う視線だけで摩擦が生まれたりする、
地味だけどつい読まされてしまう、不思議なバランス感覚の作者だと思いました。
起伏を極端に抑えた物語だからこそ、あの場面が引き立つのは確かです。
主人公「しょう」の目を通して物語を読むので、地味にならざるを得なかったのでしょう。
「ちはる」側から感じる物語も読みたい、と思わされました。
きっと、「しょう」とは違った明るさで森を歩いている「ちはる」には、もっとたくさんのものが見えていたことでしょう。
書き下ろし(というよりエピローグですね)で変化の兆しを見せた「しょう」は、いつか「ちはる」と同じ明るさの道を往くようになるのでしょうか。
百合漫画ですが、「しょう」と「ちはる」、どちらも女性性は強く描かれていません。キス(未遂)はあるものの百合らしくないのはそのせいかもしれません。
情感や、しっとりと酔わせてくれる描写には欠けますが、「人間臭さ」やキャラクターを突き放してクリアに描く爽快さがあります。
良くも悪くも「作者の女性臭さ」が感じられないので、男性でもすんなり読めるのではないでしょうか。
私は、「しょう」という人間の、自己セラピーの物語と解釈しました。
百合以外のジャンルでも、面白い何かを見せてくれそうな、注目の作家です。