この絵本の主人公のみこちゃんには、くもりガラスを見ると、ひとさし指で、くいくいくいとふいてじっと見つめるくせがあります。それは、三月の雪が降る日に学校を休んだときについたくせです。
かあさんがスーパーに買い物に行って、一人でおるすばんしていたみこちゃんは、つまんないなと思って湯気で曇っている窓ガラスをひとさし指の先で、くいくいくいとこすったのです。すると、うっすらと積もった雪景色が見えてきました。そして、「さむいよう、おねえちゃん」「ね。ね。げんきだしてね」という泣きそうな子どもたちの声が聴こえてきました。みこちゃんは、「うちに入って。あったかいよ」と行って、窓をあけて二人を招きいれました。
そのお客さんたちのかわいいことと言ったら、この世のものとは思えません。色鉛筆を用いた独特の繊細な絵柄で知られる黒井健さんが描く雪景色とかわいい女の子たちに思わず見入ってしまいました。みこちゃんのお部屋の中までがメルヘンの世界のようです。
そして、二人の女の子たちも、みこちゃんがさっきしていてみたいに、湯気で曇った窓ガラスをひとさしゆびのさきで、くいくいとふきだしたのです。すると、今度は雪景色ではなく、うすももいろの世界が見えてきました。みこちゃんも駆け寄って、くいくいくい、くいくいくいとその世界を広げてゆきます。
さて、くもりガラスのむこうにはどんな世界が広がっていったのでしょうか。それは、みこちゃんがくもりガラスを見るたびに、くいくいくいとふいて、じっと見つめるくせがついてしまうほど美しい世界でした。そして、二人の不思議なお客さんたちはどこに帰っていったのでしょうか。
絵本の作者は、『車のいろは空のいろ』で、日本児童文学者協会新人賞を受賞後、数々の児童文学作品を生み出しているあまんきみこさん、そのやさしい語り口に読者は、いつの間にかファンタジーの世界に誘われていきます。ほんわかとあたたかく明るい世界にいつまでも留まりたくなるのは私だけでしょうか。黒井健さんのイラストが、その世界をさらに美しく居心地の良いものにしています。
幼い子どもたちにとって、おるすばんは、寂しく、つまらない時間でもありますが、一人で過ごす時間は想像力を培うための貴重な時間でもあるのでしょう。こんなおるすばんだったら、私もしてみたいな。
この絵本は、一ページ一ページゆっくり開いていきましょう。そして、ゆっくりその世界に浸りましょう。春が待ち遠しい季節の読みきかせにお薦めの一冊です。