京都の大学院に通うために引っ越した正道。彼の引っ越し祝いをするために友人たちがやってくる。そんな彼らのほんの一日のできごとを綴った佳品ともいえる映画です。
若い人の多くはこの映画が「何も起きない一日」「淡々とした日常」を描いていると評しているようですね。しかし40歳を過ぎた私には、この映画は決してありふれた一日を描いているようには見えません。
サラリーマンとしての日々を送るうちにいつしか、周到な準備や綿密な計画を立てずに一日を過ごすことが許されない人生を歩むようになりました。
この映画の中に出てくる若者たちのように、突然髪を切ったり、深夜にカニを食べに出かけたり、友人を置いて恋人のもとへ走って戻ったり、約束を交わしたわけでもないのに彼氏が来るのを早朝の玄関先で新聞を読みふけりながら待ってみたりする日々は今の私にはありません。
そんな私もかつて若かったころ、友人たちと思いつきで集まったものです。そして、酒を酌み交わしたり、旅に出たり、深夜に星空をずっと眺め続けたりしたものです。それは事前に計算をしつくした上での計画的な企てではありません。後先を深慮することのない、有り余るほどの無為な時間ともいうべきものです。駆け引きや損得勘定とは無縁な友との間に無意識に、そして時に無意味に流れる時間。そんな無為な時間こそが、人間を確かに育んでいく時期が人生にはあります。そしてそのありふれた日々はやがてかけがえのない日々へと変わるはずです。
そんなことに思いが至る映画です。
だからこそ、主人公たちの行動のひとつひとつにかつての自分を重ね、心のどこかがすっぱくなるような思いを味わいました。
いい映画です。