8編が収められたこの短編集は言葉の持つ癒しの力への信頼と期待が交錯する作品集であると思う。
『レシタションのはじまり』は、アマゾン奥地のジャングルで出会った原住民達の不思議な呪術の物語。意味はわからなくとも聞くだけで癒されるその言葉。重要なのは、意味がわからなくても効果はあるのだが、動物には効果がないこと。つまり、何かしらの意味を相手が伝えようとしていることを解する者であれば、その言葉は限りない癒しの効果を持つのである。意味が伝わることではなく、伝えようとすることに意味がある。それは、表題作の『きみのためのバラ』でも同じで、主人公は、メキシコであった女性にほとんどしゃべれないスペイン語をもどかしく思いながらも、一言だけ「君のためのバラ」と言って花を渡す。伝わらない気持ちを伝えようとする行為、それ自体に意味があるのだ。
『都市生活』『ヘルシンキ』『20マイル四方で唯一のコーヒー豆』では、いずれも登場人物はほとんど見ず知らずの初対面の相手にきわめてプライベートな告白を一人語りのように語る。語ることで癒され、そしてそれを聞く者も、聞くことで癒されてゆく。
そして、その物語を読む私も、少しだけ癒された気分になりました。