離島や僻地、狭い集落の身内意識と閉塞感。
そこで、ひっそりと生きる人々。5編の短編に流れるのは、動かし難い現実と
現実に寄り添う者たち、それを受け入れ、揺れを封じ込める主人公の心の在りよう。
ふっと目に映るようにこちらの気持ちに切り込んでくる鮮やかなシーンが、
いくつも、いくつも。
夏祭りの夜店。バスの暗がり。男の口のなかのできもの。
鎖をいっぱいに引っ張って首をのばす犬。磨き上げられた螺旋階段。
看護師に持たせたみやげのジュース。くちゃくちゃになったポチ袋。
……わたしの脳裏では、そんなものが見てきたようにちらちらしている。
ことばと行為と心の間にある落差がおもしろいし、秀逸だし、
一直線に切り結ばない人間のそこが見事に書かれているのが、いいのだ。
「ノミの愛情」の妻の心情が、スリリングですごく印象的だった。
「満月の代弁者」のサキヨさんのことばが切ないではないか。
「1983年のほたる」は一番好きな話。医療とは関係なく、小学生の女の子が
主人公だが、彼女の目で見た彼女をとりまく世界の昏さにぞくりとさせられた。
ラストで、一瞬のうちに時間がぎゅーんと伸びてこちら側に来るような一文に
やられた。