読売新聞社医療情報部次長を務める記者による書。現在行われているがんの診療について、抗癌剤、手術、放射線治療、免疫療法、民間療法や検査手法の問題点を指摘し、研究中の新しい手法や最後には緩和ケアの見直しについて言及している。週刊誌の記事程度の平易な文章であり、広い読者を対象としていると思われる。200ページ程度の内容で、数時間あれば読破可能。
本書を読んだ読者は『(特に地方病院では)こんなにいい加減な医療をしているのか?』と驚きの連続になると思う。そこで可能な範囲で、検証しつつ文章をよく読んでみた。
全体的な情報は正しいものが多い。ところが決定的な難点が散見される。まず著者自身がデータの根幹となる論文を読んでいないことが、参考文献がすべて和文の書籍で論文を除外していることと、本文の記述からうかがえる。おそらく、こういう論文があるという情報を伝聞などで得た情報で紹介していると思われる。さらに、基本的な背景因子や、データの比較検証の仕方を知らないと思われる点が目立つ。また、賛否が分かれるデータのうち一方だけを紹介している部分もあるほか、日本のマスコミに蔓延している良(善)悪二元論的な論理展開が多く、基本は医療自体を性悪説に基づいて民間療法同様に見ているような記述が多い。
例えば、乳癌で温存(縮小)手術ができるようになったのは放射線治療の技術革新とデータの蓄積に依拠しているが、これがなかった旧来の治療法を『やらなくても済んだ治療』と糾弾しているのは明らかに的外れである。その一方で、傷の小さい縮小手術が有用である根拠が過去の症例との比較(ヒストリカルな検討)であり、このような比較してはいけない背景の全く異なるデータで善し悪しを決めている点は公平とはほど遠い。他にも1996年の膵癌の発症数と死亡数は同一症例ではないと思われるし、治療してもしなくても同じと結論する甲状腺の未分化癌にはおとなしい癌から形質転換するものが多い背景などは無視されている。このような展開は、多くのアドバイスを『患者よ、がんと闘うな』の近藤誠氏の取材から得ていることに起因すると思われる。また、高カロリー輸液の是非についても基本的な点で適切性を欠く記述があるが、おそらく著者は気づいていない。
途中のデータが正しくても、最終的な結論がミスリードを誘う論理展開では怪しい医療以上に重大な被害を被る患者が現れる危険性があると思う。意外性を謳う内容であれば読者の目は惹くが、体系的な俯瞰ができない日本のマスコミの取材能力の限界を感じる点が多く、せいぜい星2つまでの評価。