副題にあるとおり、ペルー日本人移民激動の一世紀の物語を描いている。中でも注目すべきは、日米戦争中に起こったアメリカ政府によるペルー在住日本人約1800名の米国への拉致、および米国での抑留事件である。アメリカの日系人の戦時強制収容事件は近年はよく知られるようになったが、このペルー日系人米国抑留事件は、NHKや民放が何度かドキュメンタリーを放映した割にはあまりよく知られていない。ペルー国内の日本人排除を狙うペルー政府とペルー在住日本人を危険とみなしたアメリカ国務省が結託し、彼らを逮捕して米国へ拉致し、その後、アジア各地で日本軍に捕らえられたアメリカ人民間人との人質交換要員に使おうと画策し、交換に使ったごくわずかの人々以外のペルー日系人を戦後は焼け跡の日本へ強制的に送還しようとした米国政府の恥ずべき行いは、もっと知られる必要がある。
著者は、ペルー日本人移民激動の一世紀の物語を両親、親戚、知人・友人、そして自分自身の生々しい体験をもとに描いている。筆者自身がアメリカ、ペルー、日本の3カ国各地を巡って証言を拾い集め、また政府公文書や研究書を収集して本書を書いている。ふつう、体験者によって書かれたものは事件の歴史的背景や事件の全貌に対する視点が弱く、逆に研究者によるものには、事件の体験者の感じたことが活写されることが少ないものである。本書はその両者を併せ持つ稀有な著書と言える。
ペルー日系人米国抑留者の体験記には、有名な東出誓一『涙のアディオス―日系ペルー移民、米国強制収容の記―』があり研究者がよく引用しているが、ペルー史、日秘関係、日米関係、米秘関係、日米戦争、そしてアメリカの日系人戦時強制収容まで視野に納めた稀有な著書として本書も併せて読まれたい。