個人的に「少年アリス」までのアルバムは、菅野よう子・岩里祐穂・坂本真綾の三人を中心に結成された「バンド」の作品だと思っています。「夕凪LOOP」以降の真綾ちゃんは、バンドを休止してソロ活動をはじめたと解釈すれば、作風の変化に戸惑っていた方々も腑に落ちるのではないでしょうか。
世界と自分との関わりをひとつずつ確かめながら唄ってゆく、ときに痛いくらいに張りつめた“あの感じ”は、もう「かぜよみ」には存在しません。
「ふつうの毎日 守ってくこと それがいまの夢」
「人生とは 世の中とは そんなものです」
こういう歌詞は、むかしの真綾ちゃんからは出てこなかった。もう“少年アリス”じゃない。坂本真綾は大人の女性になったんだ。
この成長を、表現者としての退化とみなすひとがいることは、理解できます。初期衝動というのは、たしかに、何ものにも換えがたい熱さと鋭さがある。でも、デビューから十年以上経って、ひとりの女性が変化しないほうが“退化”じゃないだろうか。自分は、もう生きてゆくことに迷わなくなり、より落ち着いた力強さを獲得した、いまの真綾ちゃんの音楽も素晴らしいと思います。