「綿棒のようなシルエット」という冒頭の比喩表現には、おっと思わせられる。その後も、薄味でありながらうまい文章だなと感心させられるところが多い。川端康成文学賞を受賞したこの表題作、読み終わってみると「だからどうした」と言いたくなるところはあるのだが、それでも考えてみると、これはこれで一つの話として完結している。要するにタイトルが作品テーマなのだろうから、その感じは充分味わえるのである。
続く『欅の部屋』は、収録3編中唯一の一人称形式小説である。語り手は結婚直前の男で、別れた彼女のことを回想している。この昔の彼女が一般的な観点からするとなかなか変な人物で、小説に奇妙なぎこちないような感覚を与えているのがおもしろい。
最後の『山猫』では、西表島から大学を見に東京に出て来た高校生の従妹が奇妙な存在ぶり(野生の猫を思わせもする)を発揮してくれる。ただし視点が時々変わるのには、単なるご都合主義ではないのだろうが、どうも違和感を覚えた。