高橋 源一郎さんの「文学なんかこわくない」(朝日新聞社)の実篤ウィルスの話しを読んで以来、ずっと気になっていた武者小路実篤先生。いつか読もうと思いつつ、なかなか手が出なかったのですが、裏表紙の解説が凄すぎて読みました。裏表紙の解説には「自分は女に、飢えている」からはじまるとてもイタイ系の文章が並んでいます。
内容に言及しています!が特に問題ない作品だと私は思います。つまり内容を知ってしまったとしても問題なく楽しめる(?)作品です。
26歳のオトコ<私>が主人公の1人語り小説です。私は近所に住む女学生<鶴>を勝手に好きなって結婚したいと思っている。私はまだ<鶴>と話したことが無い。それどころかここ1年くらいは姿を見ていない。それでも私は<鶴>と結婚する事で女に飢えた心を満たすことが出来ると信じているし、<鶴>の幸せにとっても、私と結婚する事が<鶴>の幸せだとも確信している。もちろんいまだに会っていないし、話していない...
で、この後も5年くらいこんな状態が続く話しです。もちろんこの結婚話しが上手く行くはずもありません。結末も誰もが思ったとおりの話しです。
と言う妄想炸裂の小説です。スゴイものを読んでしまった、というのが1番の感想です。解説に何故か阿川佐和子さんで、これまた非常に面白い解説です。
私が特に強調したい感想はただ1点でして、それは「武者小路実篤先生は割合本気で書かれているのか?」という事です。この小説の<私>のなりきり方はちょっと、というか、かなりの妄想癖のある方でないと想像できないくらいの重症度を感じますし、文章の構成も恐いくらいにストレートで作為をあまり感じられません。ということは、物凄く表現豊かで想像力がたくましく、それでいて作為を隠せるほどの自然さを装うテクニックの持ち主であるか、まったくの天然でほぼ実体験を書き表した、のどちらかだと思うのです。前者だったらスゴイけれど、後者な感じがする、そんな武者小路実篤先生の違う作品を読んでみたくなるような、ならないような、とても微妙な感じです。
ただ、この作品を「お目でたき人」というタイトルにしているのは前者のような気もさせる、そんな不思議な作品です。
私が連想したのは「現実入門」 穂村 弘著 光文社 です、ちゃんと計算されたものではありますが、実篤ウィルスに感染されていると私は思います。評価はともかく、とてもはっきり好き嫌いが分かれる作風だと思いますから。ただ、作為はちゃんとある、と私は思います。
穂村 弘さんがお好きな方にオススメ致します。