伊集院さんの筆力に感嘆し深い感動を覚える本である。氏のお父さんの話であるとともに筆者自身の生い立ちの記でもある。古来、日本人の文化は大陸、特に朝鮮半島から渡来した人々とともにに伝わってきたものが多く、その歴史は古い。文化という言葉の定義の核心にあるものは人間の精神活動であると理解しているが、伊集院さんの育った家庭には親から子へと伝えられる(学校教育では身につかない)躾が厳然としてあるように感じた。儒教の教えからくる多くのものが家庭の中に息づいている環境が伊集院さんを育てたと思う。
この本の前半の多くのページは、両親と、その事業に関わる人たちの中で伊集院さんがどのように育っていったかが語られている。その環境は父親を中心とする強い家族愛で結ばれた日々であったが、男の子が必ずといってよいほどに長ずるに従って避け得ない父親との葛藤も描かれているが、家族の絆が壊れることはなく父親が息子をどれほど大切にし愛していたかがよくわかる。伊集院さんの父親に対する尊敬と愛が確固たるものになっていくのであるが、恐らくはその想いが、この本を執筆されているなかで強まっていったものと推察されるのである。
母の弟が民族のアイデンティティに目覚めて朝鮮に渡り、朝鮮戦争の中に身を投じていく中で戦争の残虐な実態の数々に触れ悩む様が描かれているが、それは母が父に「弟を助けてほしい」と懇願したことによって、父が義弟救出に向かうことにより始まるのであるが、この本の「後半の後半」の大部分が救出の一部始終のドキュメントとして語られている。動乱の中、不屈の意志をもって山野を駆け巡り遂に義弟救出を果たすのである。朝鮮戦争当時、私は20歳であり学生アルバイトを通じて戦争の実態に触れていたので、この本の物語として、伊集院さんの母の義弟救出成功は当時の韓国内の混乱の中においてはまさに奇跡と言えるものと思う。
伊集院さんのお父さんの家族愛の大きく深いことが伝わってくる。お父さんは「男の中の男」の典型であり、男の本質である「自己犠牲」を、自身が言葉で語ることなく実践で示されたのである。
伊集院さんは成人の後、この父親の偉大な不屈の精神、深く強い家族愛を、身体が震えるような感動をもって体得し、これをいつの日か必ず書くという思いを永年、心の中に秘めてこられたものと思う。