タイトルに違和感を持つ人は少なくないだろう。なぜなら現代では「お化粧するは不良のはじまり」と
いう価値観が出回っているからだ。だが本書の冒頭ですぐにそれは時代性のものに過ぎないと知ら
される。本書『お化粧しないは不良のはじまり』は、女性誌のライターとして現役で活躍している著者
が、70年代に始まる女性ファッション誌文化にのみならず、近世の資料をもとに化粧が日本文化の中
でどのように位置づけられてきたかということを解き明かしていく。
そもそも白粉や眉剃り、お歯黒といった化粧をするのは、江戸時代には女性の美徳であったという。時
代が下り文明開化、西洋文化の流入でその考え方はトップダウン式に「欧化政策」ととられるが、そこ
にも紆余曲折がある。戦火においても、「敵性」と指摘されたパーマはともかく、メイクに限っては最後ま
で手放さなかったのが日本の女たちなのだ。
そのような戦前の話も興味深いが、なんといってもこの本での著者の本領は、戦後、とくに70年のan・an
創刊によって幕が開け、著者自身が親しんだ女性誌間でのメイクについてのニュートラやサーファーメイク
をめぐっての「イデオロギー闘争」の箇所だ。外国志向で「女性の自立」を謳っているというイメージのan・an
に対して、JJなどのいわばお嬢様雑誌は保守的といわれているが、著者が喝破するのはメイクに関しては
an・anは保守的、JJの方がむしろ革新的だったということだ。両者ともan・anが「外国では○○が流行ってい
る」、JJが「みんな○○がいいと思っている」といった方便で流行りを作り出しているという意味では、なるほど
どちらも日本人をわかっている。
不況のせいか、化粧のマーケットは低年齢層にどんどん広がっているという。その光景に対して脊髄反射的
に目くじらを立てるか、古来から連綿と続く日本の装う美意識の後継ととらえるか。この本を読めば事態をもう
少し冷静にとらえることができるかもしれない。