ひかわさんは少女漫画界随一の画力を誇る大ベテランだが、漫画マニアや批評家のアンテナには引っかからない。ベタベタの少女漫画だからだろう。しかしそんなことはどうでもいい。彼女が偉大な少女漫画家であることには変わらない。
本作は『彼方から』という大人気となった異世界ファンタジーの連載を終えて発表された作品。今回は室町中期を舞台にした和物妖怪ファンタジーらしい。個人的には、『彼方から』よりかなり出来が上の作品のように思う。同じ異世界物でも「時代物」の方がはるかに安心して読める世界観だ。
ひかわさんは、女にとって「男」とは何か、「憧れ」である、という万古不易の法則に忠実に、外れのない男性美ヒーローを描き続ける方なのだが、彼女の生み出してきたカップルのひとつの類型に「ファザコン」型というのがある。男が絶対の庇護者、というパターン。そもそもデビュー作の『春を待つころ』にしてもその系統だった。本作は、これまでにないほどにそのど真ん中である。
七歳の孤児のヒロインは「強くて自分を守ってくれる男の人」が「ととさま」というものなのだと友達に聞く。そしてイジメに遭う自分を助けてくれたヒーローを自分の「ととさま」と決め付け、そう呼ばわり続ける。この幼いヒロインの姿は本当にいたいけで可愛い。第一巻の冒頭、可憐な幼女が「ととさまっ」と齢十八歳のヒーローに駆け寄るカットがある。彼女の視点から見上げるヒーローの丈高さと偉丈夫さ、逆光に映えるそのシルエット、これこそひかわ世界の真髄か、と目を見張るイメージだった。つまり、ひかわ漫画の世界には「男神」がいるのだ。「男神」と寄り添うべく成長する心優しいヒロイン、という幸福な神話的世界がそこにある。
最後に付け加えると、この作品、ストーリー的にもなかなか読ませる、というのが嬉しい驚きだった。ひかわきょうこは本当に枯れない少女漫画家さんだ。