二巻のレビューでも触れましたが、この巻収録の二編は両方とも男性に焦点が向けられています。
『ステージ』は『おろち』屈指の名編。父親を無残にも目の前で轢き逃げされた幼き男の子は、犯人の顔を覚えていたにもかかわらず裁判では取り合ってもらえず、その子どもという境遇のゆえの無力を悟る。やがて面した愛する父の仇に対して彼の企てたのは、最も効果的な、最も絶大な形での復讐だった。手塚治虫『ブラックジャック』『七色いんこ』中のエピソードにもけして劣らない、緊迫の復讐劇です。
『戦闘』はすばらしく優しく高潔な父親を持った息子の話。あまりにも善良なその父親の行動に彼は戸惑いを覚えつつも尊敬を抱いていた。が、ある日、隻腕隻足の老齢の男が息子の前に現われ、あまりに衝撃的な事実を語り聞かせたことから、彼の生活は一転、暗く重いものとなる。
今回の巻は『ステージ』に対し『戦闘』が圧倒的に長いため、他の巻より読みにくく、また、『戦闘』は扱っているテーマが重く、話の筋立てが比較的軽視されているので、やや冗長に感じられるかもしれません。それでも、『おろち』随一と言ってもよいほど綿密に、深い描写をもって描かれた「あの」場面は、言葉を失ってしまいそうになる強烈な印象を読者に与えずにいられません。やはり読むべき作品でしょう。
今回、他に気になったのは『ステージ』の扉絵! 楳図ファンにとって、扉絵は『わたしは真悟』のものが有名ですが、この頃から楳図先生のセンスはずば抜けていた!