巻頭の「普甲寺」の上人と小法師の小愉快な話で笑わされた後に続く「妙専寺」のあこ法師「鷹丸」
水難の行(くだり)は、まるで動画を観るがごとき的確繊細な情景描写にまず驚かされます。
相馬御風著【一茶と良寛と芭蕉】に原文が引用されていたので再読でしたが、原典に当たる感慨は
格別な趣きがあるものです。【村人助け上げ鷹丸を介抱しけるに、むなしき袂より、蕗の薹三ツ四ツ
こぼれ出たるを見るにつけても、いつものごとくいそいそかへりて、家内へのみやげのれう(料)に
採りしものならんと思いやられて〈中略〉袖をぞ絞りける。】…この後、父母の待つ寺での描写も
人情の奥底を揺さ振られます・・・。
そう云えば【草枕】でも「御那美さん」が「観海寺」の大徹和尚の袂に泥だらけの芹を押し込んで
いたっけ…余談になりますが、俳句・お寺・小坊主など材料が重なるものの、雰囲気はむしろ前著
の「柏原探訪記」の方が「那古井」の情景に酷似していて驚かされます。
ほかにも牡丹園の主人の奇行や「さと」ちゃんの【早蕨のちいさき手を合わせて なんむなんむ と
唱ふ聲】など「滑稽で」「可愛くて」「悲しい」話が美しい文章で表わされています。
俳画の様な挿絵も独特の味わいがあって一茶の人柄が偲ばれます・・・是非一読をおすすめします。