堀を背景にした、6編からなる短編集です。
全作品とも、途中に悲しい事があっても、最後は前を向いて歩いていけそうな話で、心に沁みるような家族の情愛が描かれていました。表題作も良かったですが、以下の作品が特に好みでした。
「ため息はつかない」 育ての親だが何かと口うるさい叔母を、時には煩わしく思っていた豊吉に、奉公先で縁談話がもちあがります。後半で自分の本当の気持ちを痛感させられる豊吉をふくめ、各人の心情が巧みに描かれ、かなり心を打たれる作品でした。
「御厩河岸の向こう」 姉弟の情を描き、けっこう幻想的な話なのですが、最後は涙ぐんでしまうくらい、心をとらえる作品でした。夢堀というのが何ともいいです。
他に、言葉に出さないけれど相手への思いがすごく伝わってくる「裾継」も印象に残りました。
この本は、優劣をつけがたい作品ばかりでしたので、宇江佐さんの『深川恋物語』みたいに、副題の『江戸人情堀物語』のみを、書名としても良かったのではと思いました。