本書は、有名な挿絵画家の作品を通して、主に20世紀初頭の豪華なカラー挿絵の世界を紹介する本となっています。7人の挿絵画家がメインに取り上げられています。
7人分詰め込まれているため、量の部分では期待できませんが、良質な本だと思います。特にこの世界の扉を開いてみようと思った方や、類書を所持していない方にとっては、和書でコンパクトにまとまっており、内容の割には価格も良心的なのでお勧めです。
手にとって見やすいサイズで、シンプルながらも“こだわり”が感じられるページレイアウトは美しくて心地良く、無駄な空白がありません。
1つの絵に数行の解説があり、メインに取り上げている作品には場面説明もついています。巻頭には20ページ程度の時代背景や画家の説明があり、巻末には「おとぎ話の図像学」と題した35ページ程度の解説があります。
ほとんどの絵が1ページ大で、色も概ね良く、裸眼では印刷のドットが目立たないレベルの画質があり、絵の再現性に対する不満は、私は特にありません。
収録作品は、まず、
(1)ラッカム:「不思議の国のアリス」9点、その他9点、巻末に12点、影絵3点
(2)デュラック:「千夜一夜物語」11点、その他10点、巻末に6点
この2人については、和書でも様々な種類の本が出ており、(画質はともかくとして)Dover Publications社の収録数の多いA4サイズの廉価本(洋書)が何冊もあることを考慮すると、初めから色々と詳しく知りたい方にはお勧めできないと思います。代表作は載っている感じで質はあるのですが、ちょっと量が足りません。
次に、
(3)カイ・ニールセン:「おしろいとスカート」(*1)25点、「太陽の東、月の西」(*2)11点、「千夜一夜物語」5点、その他6点、巻末に9点
(*1) Minon-Minette, Felcia or the Pot of Pinks, The Twelve Dancing Princesses,
Rosanie or the Inconstant Prince, The Man who Never Laughed,
John and the Ghosts, The Czarina's Violet
(*2) East of the Sun and West of the Moon, The Blue Bell, Prince Lindworm,
The Lassie and Her Godmother, The Three Princesses of Whiteland,
The Giant Who Had No Heart in His Body, The Widow's Son
ニールセンについては、Dover Publications社の本(洋書、ISBN-10: 0486449025)に収録されている絵のほとんどがあります。
また、私にはあまり魅力的ではないのですが、「千夜一夜物語」はDoverの本にはありません。
(※)私の主観ですが、Doverの本との比較では、本書の方が少し画が小さいですが、画質や色は良いと思っています。また、新書館の絵本「おしろいとスカート」との比較では、本書の方が色や階調は良いのですが、画質に少しシャープさを欠きます。一方、新書館の本は描線がくっきりしていて、ニールセンの挿絵をより明快に観賞できますが、原画が本当にそうなのか少し疑問があります。
その他には、
(4)ウォルター・クレイン:「赤ずきん」5点、その他約12点(「美女と野獣」・「かえるの王子」など)
(5)ハリー・クラーク:19点(ペロー童話・アンデルセン童話・「ファウスト」・ポオ怪奇小説集など)、巻末に1点(「時は春」)
クレインについては、多様な作風の中で、選ばれた絵に少し偏りがある印象がぬぐえませんが、幸い廉価なDover Publications社の本(ほぼ絵だけの洋書、ISBN-10: 0486475867)との重複がほとんどないので、相補的に使えると思います。
“アイルランドの魔法使い”と紹介されるクラークについては、いずれの作品も“さわり”程度になってしまいますが、とりあえずこの画家を概観できるのではないかと思います。和書でも、新書館の本が数冊あるようですので、気に入った作風の作品は本格的に補える感じです。
おそらくこの本の特色は、最後の2人、
(6)アラステア:「マノン・レスコー」11点、その他10点
(7)ジョン・オースティン:「ハーレクインの冒険」7点、その他17点
かもしれません。
アラステアは、頽廃的な異形の人々を描き続けた“アール・デコのビアズリー”と紹介され、ジョン・オースティンは、バルビエ風を含む数種類のスタイルを持つ“優雅なモダニスト”と紹介されています。その寸評は、絵を見る限り、ある程度は言い得て妙と思います。
ただ、2人ともファンタジーとは少し無縁の、アート指向な作風に感じます。一般的な人気を博するタイプの作品ではありませんし、挿絵のメインストリームに位置する画家とは、少なくとも私には思えません。
入門書的な本書にはそぐわない感じもしますが、貴重な紙数を割いてこの2人をわざわざ選んだのは、著者の偏愛のなせるわざなのでしょう。