確かに訳がわかりにくいです。
「日本語を学ぶ外国の人が、苦し紛れに翻訳したのかな?」と思うくらいです。
しかし、それは逆に原文への忠実さの表れとも言えるし、解読には苦労しますが、
時折表れる素直な日本語に腑に落ちながら読み進んでいけば、
相変わらずフランツ女史(ユングの高弟)の調子はキッパリしていて心地良く、
さすがにフランツ女史の講義なので、内容的にはかなり充実しています。
おとぎ話全般についての講義ではなく、
「魂の救済のプロセス」がモチーフになっている<特定のおとぎ話>に焦点が当てられています。
おとぎ話の呪いや魔法にかけられた人=神経症にかかっている人
呪いから解かれるプロセス=神経症を克服するプロセス(心の全体性回復)
という具合に、おとぎ話の中に心の全体性回復のプロセスが読み込まれています。
(自己<セルフ>という全体性からズレて不自然な生き方をしている現代人は、
多かれ少なかれ神経症の呪いにかかっているんですね、みんな。)
以下がザッと、その目次です。
1、救済のモチーフとは
2、入浴の鎮静効果に関するモチーフ
3、感情に圧倒されるコンプレックス
4、動物の皮に関するモチーフ
5、救済が起きるためには
〜セルフとの関わり
6、シャツに関するモチーフ
7、象徴的な考え方
訳が悪いのか、これまたなんだか面白くなさそうな目次で、
「星の王子さま」のようなポピュラーな作品の分析ではなく、
日本人にとってはなじみのない欧米やロシアのおとぎ話の解説なので、
(『七羽のカラス』『豚王子』『リンドルム(翼のない龍)王』などなど)
初めは興味がわきにくいですが、
東洋的な仏教のセルフの考え方まで視野に入ったフランツ女史の博学ぶりと、
健康な本能的知性による解説が圧巻で、
個人的には、
「おとぎ話の出来事は歴史的にはっきりとした場所と時間に起こったことなのか、ただのおとぎ話なのか?」
という議論に対して、
「おとぎ話とは実際に経験された出来事に基づいてそこから引き伸ばされ、
語り継がれる物語になって広がっていったものなのだ。」
と、<おとぎ話の骨格の事実性>がキッパリ主張されている箇所に心の目が開かれました。
これまでのフランツ女史の一連のおとぎ話の分析では、
おとぎ話のモチーフがどれほど緊密に私たちの現実の生活と結びついて、私たちの感情生活なり運命なりに影響を与えているのか、
その解説の見事さにウットリするばかりでしたが、
今回取り上げられている救済モチーフにおいては、
神経症的な21世紀の救済(心の全体性回復)の指標(モデル)としてのおとぎ話が浮き彫りにされていて心踊りました。
心の全体性を支える本能的基本構造と一致して、健康に機能する自我の態度はいかにあるべきか、
たとえ病むことがあっても、人間は健康な自我を機能させて全体性を取り戻して回復していく、
いきおい、
そのプロセスは21世紀のどこかの誰かによっても具体的に生きられ、やがて実話として語り継がれ、
おとぎ話になる運命を持つ、
と、
そんな健康な筋書きに未来への希望がいっぱいになりました。
(私的余談ですが、21世紀の<神経症的おとぎ話キャラ>のスティングが主題歌を提供した
ディズニーのアニメーション映画は、『ラマになった王様』です。)
これから読んでみたいと思う方の訳の解読の苦労を思えば、
★1つくらいはマイナスにしたいところですが、
どっちにしろ、この本がタイムリーに日本に紹介されて良かったです、訳者には感謝です。
「呪いのために私はこんなことをしたけれど、今は終わりました。」
本文より