臨床上役立つ貴重な情報を所々に見出せるのも確かですが、全体として纏まりに欠けるのは否めません。会話は流れていくが深まらない、というべきでしょうか。
カリスマ精神科医である神田橋條治氏を中心に、認知行動療法で活躍中の原田誠一氏のほか数名加えてうつ病の座談会を催して本にすれば売れるかもしれない、とそこまで安易な企画によるものか存じませんが、書物の出来としてはその程度の気がします。
座談会の口火は神田橋先生が切られていますが、前半は渡邊・菊池の両先生が引っ張り、後半は原田先生がリードするという役割分担になっているようです。神田橋先生は思い付いた事を流れをあまり気にせずお話されるのですが、原田先生は症例提示を依頼されているためか神田橋先生の発言に付き合う余裕なく先に進まざるを得ないような場面もあり、痛々しい感じさえしました。
また本書のタイトルは『うつ病治療』ですが、出発点の「うつ病」の定義の議論が曖昧なまま終わってしまっていることも評者としては大きな不満です。
本書の読者層として、そんな初歩的なことがわかっていないような門外漢や研修医レベルの人は想定されていないということなのかもしれませんが。
しかし、渡邊先生は米国の「STAR*D スタディ」に言及した箇所で「大うつ病というカテゴリーの中にいろいろな患者さんを入れ込んだために・・・」と述べられていますし、原田先生に至っては巻末の特別寄稿の中で操作的診断基準が齎される以前の従来の診断法を今も採用されていることを示唆し、座談会の症例提示においても「うつ病」と「抑うつ状態」などを一応区別されていますが、認知行動療法の議論を読む限り「うつ病」か否かは重要ではなく、むしろ個々の「うつ」がどんな特徴を備えているかの方が大切なのではとの印象さえあり、言行不一致のように思われました。
というわけで、本書に対する評価は低目ですが、神田橋先生の座談会〆の言葉に一定救われた感もあり★3つとしました。