ヘミングウェイ・ヴィヴィアン・リーなど有名人から一般の人まで、自殺したり事件(事故?)に関与した"うつ状態"(私はあえて「うつ病」とは言わない)の人たちの病状や自殺などに至る経緯の具体的な紹介が大きな特徴。うつ病を「心のかぜ」と軽く見る風潮に対する著者の批判自体には同意できる。ただし、実例の中には統合失調症の色彩が濃い人や神経症的人格傾向をもつ人の例もあり、本書の例が典型的なうつ病の具体像と言えるかどうかは疑問。典型的なうつ病とそうでないものとの違いに注目する人には不満が残るだろう。
また、抗うつ薬には古典的な三環系と新規抗うつ薬(SSRI・SNRI)があるが、著者は新規抗うつ薬派で、三環系の副作用を重いと見、年配の医者ほど三環系を勧めると皮肉をこめて言うが、うつ病にかかった私には逆に、新規抗うつ薬で重い副作用(攻撃性など)が出る。薬の副作用は人それぞれ。新規抗うつ薬が優れるという現在の風潮を強めそうで危険を感じる(実際私は若い精神科医に新規抗うつ薬を強く勧められ、断るのにたいへん苦労した)。新規抗うつ薬を安易に信用しない「年配の医者」とは、そういう決めつけに慎重なベテランで、むしろその姿勢に学ぶものがあるのかもしれない。
読み終えて、結局、本書は、うつ病かどうかはともかく、自殺などの深刻な社会問題とそれを助長する日本人の国民性との関係に焦点を当てた本ではないかという印象を持った。そういう意味では、日本人の国民性に警鐘を鳴らす著者の意見は一読に値する。