ひと言もしゃべらない登場人物というのは、案外あったような気がします。でもそれは、男女のどちらか一方だった。本作は、男女とも沈黙のまま進行していくというのが凄い。二人とも喋らないのに、二人の気持ちを観客に見せることに成功している。
基本的にファンタジー映画ではありますが、ギドク監督の特徴でもある暴力描写は健在で、ゴルフボールを人に向けて打つという描写。そして、旅の途中で発生した悲劇もまた、ゴルフボールと結びついている。本作の韓国語の原題は“空き家”ですが、英題は“3-iron”(三番アイアン)としたのも頷ける。3番アイアンは一番使われることが少なく、ゴルフバックの中でひっそりしているという意味合いもあるらしい。邦題の「うつせみ」も言い得て妙な、いいタイトルだと思います。
それにしても、このラストには幸せな気分にひたりながらも、ただただ呆然とするばかり...。およそこれほど現実離れしていて、しかし奇妙な絆で結ばれた男女にとって幸いなラストは他にないだろう。でも、現実的であるかどうかは問題ではない。そもそもテソクという青年の行為と二人の巡り逢い自体が一種ファンタジーなのだから。エンドクレジットの前に「なにが現実で、なにが夢なのかは区別がつきにくいものだ」という趣旨のテロップがでますが、このラストに向かって伏線は丹念に張られていることにあらためて気づかされます。