ギター弾き語りスタイルで一昨年のデビュー以来一部の音楽好きから既にカリスマ的人気を持つ青葉市子の3枚目。
出会いはネット上で観た「腸髪のサーカス」のライブ動画、日本人形の如く伸ばした長い黒髪をうつむき気味にし静かに、だが
我を忘れるように切々と感情を流し込む彼女の歌に速攻惚れ込んでしまった。
素人っぽい素朴な語り口のソプラノ・ボイスは初期の大貫妙子を想わせる。しかし彼女の場合清楚で穏やかな語りの中に何
か狂気のようなものを感じさせる。個人的には山崎ハコ辺りを思い出した。
そしてギターがまた上手いのである。ギターを本格的に始めたのは17歳の時だそうだが、複雑で多彩な響きをその場に応じ
使いこなす高度な演奏は深い素養を感じさせとても数年のキャリアとは思えない。
彼女の音楽からはギターと歌の本来の意味での一体感と自由さを感じさせる。彼女にとってギターは単なる伴奏楽器ではな
く、声だけでは表現しきれない感情のニュアンスを補完する「声」そのものなのだろう。
本盤収録の美しいワルツ「あなたのかざり」を聴くとその一体感が分かり易い。ギターのワルツの微妙な揺れが彼女の息遣い
と見事に同期、歌の感情が高まるとそれと共にギターの動きも速度を早めていく。それは第三者を介さない弾き語りというスタ
イルだからこそ出来る真に自由な音楽の形であり、外的縛りが無いが故の奔放さを感じさせる。
構成はインスト1曲含む全8曲で30分強。尺は短いが一曲に濃密が感情が込められ面と向かい合うとエネルギーを消耗する。
冒頭の「IMPERIAL SMOKE TOWN」が最も衝撃的。「はーっ、はーっ…」と彼女の息遣いのみが延々聴こえる幕開け、引き続
き時折感情が振り切れた様に炸裂するアルペジオを伴ったギターを伴い歌われるのはSF世界観のような言葉達、ギター弾き
語りという古典的な装いとのギャップが面白い。「ああここへ来てはいけないよ、つかまってしまうlobotomy…」の一節を感情を
爆発させず淡々と刻む彼女の声はぞっと背筋が凍る静かな狂気を感じさせ、本作で最も素晴らしい瞬間だ。
唯一のカヴァーは大貫妙子の「3びきのくま」。近作「
UTAU(2枚組)」坂本龍一のピアノをバックに歌い上げる大貫の歌からは宇
宙から地球を見下ろし包み込む大きい存在を感じたが、青葉の歌は少女が空を見上げ夢想にふける親しみを感じさせる。
最終2曲は3.11に影響を受けたと思われる彼女なりのメッセージ。「奇跡はいつでも」では大切なものを亡くした人、「ひかりのふ
るさと」では死して後一つの大きな光に収まる多数の魂を歌っている様に私には聴こえ心が震える。
ちょっとアングラっぽい香りを漂わせるが、本物のソウルを持つ逸材による実に美しい作品だ。未聴の方はまず彼女のライヴ動
画等をチェックしてみて欲しい。意外と茶目っ気あるMC含め彼女の魅力が伝わると思う。