このCDには「チェンジング・ジャケット」というのが ついています。 歌詞リーフレットの裏表紙の写真と,「テイルズ オブ ファンタジア なりきりダンジョンX」のイラストとが両面印刷になっているもの。「なりダンX」のほうの えがらは,店によって3種類あるらしいです。(通常版のほかに,アニメイト版とTSUTAYA版が あるらしい。)
歌詞リーフレットの最初の「泡沫」の歌詞のあるページの青空がきれい。その青色が,写真のないページの色になっていて,すきとおった感じをだしています。表紙が赤いドアと壁の たてものをバックにしているから,それとの対比で ますます きれいに みえます。
あっ,華子さんの お写真も いいですよ。「ガラスの花」のページの写真は文句のつけようのない,ギリシア彫刻に色がついたかと おもえるような美人。つぎの「木漏れ日の中で」のページの写真は,こどもっぽくも おとなっぽくも みえます。でも,たぶん,「奥華子」といってイメージされるものに ちかい写真は,「フェイク」のページにあるものだと おもいます。
それぞれの曲の概要と感想をかきます。
【01 泡沫】
アルバムのタイトルにもなっています。むかし つくった曲だそうです。これまで未収録でした。
AメロからBメロへの移行に飛躍があって,急に曲が かわったような感じをうけます。そして また かなり とうとつにAメロに もどるのだけど,「鏡」とか,あと それらほど とうとつではないけれど「楔」にも みられる特徴で,いかにも初期の作品というところでしょうか。よくも あしくも,それが この曲の魅力になっています。
ある意味,この「飛躍」が,「うたかた」という曲のテーマをあらわしているとも いえるかもしれません。サビは「うたかた」にして きえてしまい,曲は そこで おわるのです。
この曲を最初にもってきたというのは,奥華子さんの自信の あらわれだと おもいます。
【02 初恋】
シングルで 週間オリコンチャート10位をとった曲です。
何回でも ききたくなる曲です。シングルで発売されたとき わたしはレビューに「もう何年まっていただろうか。世代に関係なく だれでもが くちずさみ,自分の体験をよびおこすことのできる こんな曲を」と かきました。いまも その おもいは かわりません。
【03 フェイク】
和音の4分打ちは いつもの前奏のようだけれど,なんか音が あやしい。いつもと ちがう…。そして曲も歌詞も やっぱり あやしげに はじまり,急に はじけるという展開をしていくのでした。本人の言によれば恋愛「倦怠期」の2人が歌詞のテーマ。奥華子さんが軽快な曲調で うたうと aikoさんに にてくると まえから おもっていたのですが,この作品は「チョコレート」とは ちがい,曲が あかるいのに不安定な心理をうたうという意味で,ますます にた感じがします。
【04 羽】
ちょっと きくと2拍子にも3拍子にも4拍子にも きこえる微妙なバランスをとった6拍子…なのかな? 奥華子はリズム感がないなんて,だれが いったんだ!?…(まあ,実は ご本人が,なのですが…)と いいたくなる すてきな曲です。ゲームの挿入歌だけれどフルできくと すてきな間奏が はいっています。でも,このバイオリンが ないているところ,ひきがたりのライブでは どうするのでしょうか?
【05 逢いたいときに逢えない】
ほかのひとのレビューでも「一番」に おされていることが おおい曲。全体の感じは いままでの「奥華子」を代表するイメージそのものだけれど,のびやかなBメロは ありそうで なかった展開。むしろK−POPのバラード曲に ありそうな王道の 泣きソングです。Cメロの たたみかけるところは いい意味で往年の歌謡曲。それをいつもの感情をこめすぎない こえで うたってしまうというのは,「こんな手が あったか」というワザです。(いきものがかりのインタビューで,水野良樹氏が「『木綿のハンカチーフ』を太田裕美は さらっと うたっている」というようなことを指摘していたのをおもいだしました。)うたいたくなるというより,きいて ひたりたくなる曲だとおもいます。
【06 トランプ】
シングル「ガラスの花」の制作過程で ちょっとした都合でカップリングで「トランプ」という題名の曲をふやさなくてはいけなくなって,きゅうきょ つくった曲ということだけれど,できばえは このアルバムのなかでも,一二をあらそうものでしょう。みじかい時間で できてしまった曲ほど いい曲だなんて よく いいますが,そんなものなのでしょうか。きっと,それまでに熟成されていたものが そのときの その きっかけで そとに でてきて うまれた曲なのだと おもいます。
曲全体の構成や雰囲気は「タイムカード」そっくりです。無意識であれ,作曲の原型になっていたのではないかと おもいます。
【07 ガラスの花】
きく ひとの こころをうつしだす不思議な曲です。そのときの きいている自分の状態によって きこえてくる おとが ちがうんです。それだけ いろんな色彩のある和音が こまやかに ちりばめられているからだと おもいます。
はじめてサビだけ きいたときには,「いきものがかり」風だと感じました。「ターン・タ・ターン・タ」という「3/8」と「1/8」の くみあわせが多用されていたからです。でも,全体を最初から きくと,きっちりとした構成と おぼえやすい自然な展開の わかりやすい「奥華子」の曲でした。
曲は もちろん,奥華子さんの編曲の才能にも感服します。サビの「やさしさの なかで」の「な」の ところの和音に しびれます。おきまりの進行の はずなのに ここで不安な おとをまぜておいて つぎに一気に開放するという こまかいテクニックが さえています。
【08 木漏れ日の中で】
ふるい曲だそうです。これまで未収録でした。ことし1月に東京の大崎であったインストアの無料ライブでリクエストに こたえて うたってくれたのをおぼえていますが,その1回,しかもメドレーの なかでの一部としてしか きいたことがありませんでした。前奏のピアノが やさしい。和音コードではなくピアノが副旋律をひいているからです。こういう伴奏のスタイルは「春風」と にています。ただ,もりあげるところは あるのですが,最後まで ゆっくりしたテンポで おさえめの演奏で「うた」のほうをいかしています。初期の作品に こんな おだやかで のびやかなものが あったんですね。
むかしからのファンがリクエストした わけが わかるような気がしました。
【09 虹の見える明日へ】
あかるく つくった曲に のせられてしまうのは単純すぎて くやしいんだけど,ほんと元気でるのだから しかたありません。
名古屋市の金山にあるショッピングモール「アスナル金山」のテーマソングとして つくられました。カラオケのDAMで うたうと,画面に金山駅の風景が でてきます。ここで月2回,「アスナル金山」提供の「奥華子のアスナルトレジャー」というFM愛知の公開録音が おこなわれています。
【10 秘密の宝物】
ある意味で,これこそが「奥華子」そのものなのかもしれません。歌詞に お約束の「〜かな」連発が あるし,メジャーとマイナーをゆきつ もどりつ,ピアノは うたの部分でコードをおさえつつ,間奏になると おもいっきり もりあげます。ちょっと曲が豪華に おもえるのは,前奏と後奏をおなじメロディーのピアノで とじているから「かな」。あるいは,詞の内容が客観的には「恋愛」以前の段階の うじうじした心理状態なのに それをけっこう おおげさに かざって うたにしている「かな」。
【11 パズル】
いきなり低音で うたいだして,うたいだすのと同時に不協和音が ひびいてくるという,「奥華子」的には とんでもない(!)作品。そのあとは いつものようなピアノの伴奏が はじまることは はじまるのだけれど,それが めちゃ低音! こえが高音に移動していていも,ピアノは ひくいままで しばらく つづきます。…と,おもったら,サビに はいるとエレキな おとが参入してきて たいへんなことになってしまいます。この おきてやぶり(あくまでオクハナ基準でという はなしですが…)の曲が,キーボードしかないライブでは どうなるのか,ちょっと不安で 実は とても たのしみです。
歌詞は,哲学的。「オクハナさん,こんなこと かんがえてたんだ〜」と おもうと,ジャケットの笑顔が すこし ちがって みえます。
【12 春夏秋冬】
前奏のピアノは「木漏れ日の中で」以上にメロディーをひいていて,わたしは条件反射的に谷山浩子さんの とある曲かと おもってしまいました。これこそ,みんなが うたえる うたです。大阪城野音で曲紹介のときに「泉谷さんじゃありません」と いっていましたけど,泉谷さんとは ことなる意味で たしかに これは「フォーク」です。ふと,うたいたくなったときに くちから でてくる うたであり,ときには みんなで合唱だって できる曲だと おもいます。ひょっとすると,このアルバムで いちばんの「名曲」かもしれません。
【13 元気でいてね】
相対的に あかるい曲が すくない奥華子さんですが,その すくない曲は すべて できが いいと おもいます。しかも,これは スローテンポ。なきながら元気になってしまう魔法の曲です。
なんでも,しめきりをのばしても全然曲が できず,おいつめられて なきなき つくった曲だということですが,本人の言によれば最後に「たかが奥華子」と ふっきれて「みんなのことをおもって」つくったら できたんだそうです。
大阪城野音では,CDのとおりの手拍子が できなかったので,こんどライブで きくときは,「ン・チャチャ・ン・チャ」で やりたいですね。いやあ,ほんと,なきながら わらっちゃいますよ。ききながら,どうしたらいいか わからなくなっちゃいます。
このリズムが きっと反則なんですね。ケロロ軍曹のエンディングだった「僕らの合言葉」(うた:清浦夏実,作詞作曲:つじあやの)をおもいだしました。
ほかの かたの指摘で わかったことですが,歌詞の最後の行の「また会える日」が実際には「また会える とき」と うたわれています。きっと時間がない ぎりぎりの段階の録音で 最後の部分にイロをつける修正をしたものの,歌詞の表記まで なおせなかったのか,わすれてしまったのか したのでしょう。できあがった しめのメロディーでは「とき」というように2拍にしておかないと うまく うたえません。
【14 rebirth】
ほかの かたのレビューで イチオシになっていました。
この曲は,たぶん,ききこめば ききこむほど こころに しみてくるような気がします。あと,ゲームをクリアしたときの疲労感と充実感と達成感と ともに きくと,すごく よく きこえるんじゃないでしょうか。
歌詞は,「なりダンX」のストーリーにそっているので,制約があったと おもいますが,ゲームをしていない わたしが単体で歌詞をよんでも,とても きれいだなと おもいます。たぶん,わたしには うつくしすぎて,浸透するのに時間が かかっているんじゃないかと おもいます。
8月14日にNHKのBS2で放送された,アニメソングの番組に 奥華子さんが出演し,劇場版アニメ「時をかける少女」の主題歌「ガーネット」をうたいましたが,華子さんを紹介するときに,番組の「論客」として よばれていた作曲家の神前暁(こうさき・さとる)さんが,「メロディーよりもサウンドが重視される時代にピアノ一本でやるというのは 侠気だ」と いっていました。また,マイナーキーをつかわなくても かなしいという最近のアニメソングに きわだつ「メジャー泣き」の技法について説明していたのですが,この2つの特徴は「うたかた」の楽曲にも ふんだんに あらわれています。たとえば「春夏秋冬」も「rebirth」もピアノだけで じゅうぶんに なりたっていてCDにも最低限の楽器しか たさないで収録されています。「初恋」も「秘密の宝物」も「逢いたいときに逢えない」も「メジャー泣き」の お手本のようです。
ぼくらの「うた」。それは,特別に歌唱力のある歌手にしか じょうずに うたえない曲ではなくて,みんなが くちずさめて,楽器なしでも うたえるものの はずです。それでいて,ひとつひとつの曲には多彩な表情が あって,うたいかたや,ききかた次第で,いろんな模様の花をさかせるというのが わたしたちが ずっと もとめていた曲ではないでしょうか。うえの「初恋」や「ガラスの花」のコメントでも そのようなことをかきましたが,実は こうした わたしの おもいは「奥華子」の すべての楽曲に対して「かわらないもの」として ありつづける期待と よろこびなのです。
アルバム『うたかた』は,宝石箱のようにして,そんな ぼくらの「うた」の「かたち」をいくつも ころがして みせてくれていると おもいます。